本研究の目的は、男子サッカー選手に多く発生するとされる鼠径周辺部痛(GP)発生の原因について、発育に伴う骨の器質的変化および特徴、股関節筋力、股関節可動域、キック動作のキネマティクスおよびキネティクスから明らかにすることである。 2023年度は、これまで収集したキック動作(インサイドキック、インフロントキック3方向)の3次元解析データから骨盤・股関節の角度および角速度について0~100%の時間で規格化し、成功試技3回の平均値を算出した。鼠径部痛既往有無による比較には統計的パラメトリックマッピングを使用し、これまで行われてきた各層毎の平均値、最小値、最大値のみの比較ではなく、キック動作の角度および角速度の波形の比較を実施し、より詳細な解析を実施した。その結果、正面の的へのインサイドキックおよびインフロントキックにおいて、軸脚および蹴り脚の股関節内転/外転に有意な違いがみられた。また、軸脚方向の的へのインフロントキックにおいて、蹴り脚の股関節内転/外転に有意な違いがみられた。 研究期間全体を通じて、男子サッカー選手の股関節形態では大腿骨前捻角の左右差がGP既往と関与しており、より発育早期からサッカー競技開始することは、大腿骨前捻角減少と関係していた。また、近年股関節痛の要因の一つとして考えられている大腿臼蓋インピンジメント(FAI)は先行研究同様に男子サッカー選手のCam-Type FAI有病率が高かったものの、GP既往有無における違いはみられなかった。股関節可動域、股関節筋力においては、可動域に違いはみられず、筋力は蹴り脚の外旋、軸脚の内旋、内転筋力、内転/外転筋力比に違いが認められた。GPに対する患者報告アウトカムであるThe Copenhagen Hip and Groin Outcome Score(HAGOS)では、競技復帰後もQOLのサブスケールが低下していた。
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