研究課題/領域番号 |
17K18318
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
山内 紀子 茨城大学, 工学部, 助教 (20598106)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖鎖 / ポリマー粒子 / ワンポット合成 / ソープフリー乳化重合 / 水相合成 / 単分散 / サブミクロン粒子 / ウイルス検出 |
研究実績の概要 |
インフルエンザなどの感染症の拡大を抑制するためには,感染初期のウイルスが微量な検体に対する,迅速かつ正確なウイルス有無の判定が望まれる。本研究では,「糖鎖」のウイルス認識能を利用して,検体中のウイルスの検出・濃縮・分離操作を簡便かつ精密に行うことができる「糖鎖固定化ポリマー微粒子」の新規合成法の確立を目指している。高効率・高精度でのウイルス検出のためには,糖鎖がポリマー微粒子表面に高密度で固定化されるとともに,粒子の粒径均一性が高い(単分散である)ことが必須である。 糖鎖には数多くの種類があり,それぞれ特異的に吸着するウイルス・細菌が異なる。平成29年度は,モデル糖としてグルコピラノシド(グルコース)をもつアルキル-β-D-グルコピラノシド(アルキル-β-D-glc)を用い,サブミクロンサイズの糖鎖固定化ポリマー粒子のワンポット合成法の基盤を確立した。粒子合成法としては,水溶媒中でのクリーンプロセスであるソープフリー乳化重合を採用し,ポリマー種は化学的・物理的に安定性が高いポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリスチレン,重合開始剤は過硫酸カリウム(KPS)を用いた。 予めアルキル-β-D-glcを溶解させた水溶媒中で重合することによって,アルキル-β-D-glcを表面に固定化した単分散ポリマー粒子のワンポット合成が可能であることがわかった。さらに,アルキル鎖の長さが糖固定化に与える影響について検討した結果,オクチル基をもつオクチル-β-D-glcが糖固定化に適していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソープフリー乳化重合による粒子形成機構は,重合開始の初期の極めて短時間で粒子核形成が起こり,その後は,モノマーを取り込みながら粒子が成長する。アルキル-β-D-glcの添加時期として,重合開始前から加える(アルキル-β-D-glc存在下で粒子核生成)のがよいか,重合開始後の粒子成長段階に加えるのがよいかを検討した。その結果,予めアルキル-β-D-glcを溶解させた水溶媒中で重合することによって,アルキル-β-D-glcを表面に固定化した単分散ポリマー粒子のワンポット合成が可能であることがわかった。 また,アルキル-β-D-glcのアルキル鎖には,糖を固定化するアンカー(錨)としての役割を企図していることから,アルキル鎖の長さが糖固定化に与える影響について検討した。アルキル基として,メチル基(CH3-),オクチル基(C8H17-),デシル基(C10H21-)をもつアルキル-β-D-glcを用いて重合した結果,オクチル基をもつオクチル-β-D-glcが糖固定化に適していることがわかった。 ポリマー粒子表面への糖固定化量の評価には,β-D-グルコピラノシドと特異吸着するタンパク質,コンカナバリンA (ConA)を用いた。ポリマー種がPMMAの場合は,ConAの非特異的な吸着が少なく,糖固定化の有無を確認できた。一方,より疎水性の高いポリマーであるポリスチレンの場合は,ConAのポリスチレン粒子表面への非特異吸着量が多く,糖固定化の有無の判断が難しかった。そこで,タンパク質の非特異吸着を抑制するウシ血清アルブミン(BSA)を用いて,ポリマー粒子表面のブロッキング処理を行ったところ,ConAによる評価が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス吸着後の粒子の磁気分離および蛍光標識を可能にするため,磁性粒子および蛍光色素を内包した糖固定化ポリマー粒子の合成を行う。糖固定化ポリマー粒子中への磁性粒子の包含は,磁場による迅速な粒子回収を可能にすることから,ウイルスの検出・濃縮・分離操作のオートメーション化技術に貢献する。蛍光色素を含有した糖固定化ポリマー粒子は,目的とする細胞のみを蛍光標識するバイオマーカーとしての応用も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究が予定通り進行したため,次年度以降に繰り越すことにした。 平成30年度以降,新たな消耗品や試薬が必要になるので購入する。
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