本研究の目的は、未分化型の精原細胞の段階から減数分裂を開始してしまい、やがて生殖細胞が枯渇する異常を持つゼブラフィッシュENU 誘導変異体PM-035の原因遺伝子の同定と機能解析を行い、脊椎動物における減数分裂開始機構解明の新たな糸口を見出すことにある。まずPM-035変異体の原因遺伝子を同定するためにマイクロサテライトマーカーを用いてゲノミックPCRを行い、15番染色体の上流域に変異座が連鎖することが分かった。次に、次世代シーケンサーを用いた全ゲノムSNP解析を行った。当初ゼブラフィッシュのリファレンス情報の問題で有望な変異座候補を見出す事ができず計画に遅れが生じたが、平成30年に公開された最新のゲノム情報(GRCz11)を用いる事により、15番染色体の上流域の3遺伝子に変異体特異的な終止変異が存在することを見出した。 これら3遺伝子をPM-035変異体の原因遺伝子の候補とし、CRISPR/Cas9を用いて変異体を作成して表現型解析を行った。成体の変異体オスと野生型メスと掛け合わせたところ、そのうちの1つがPM-035変異体と同じく不妊であった。精巣の組織切片を観察すると、生殖細胞が無くなっているというPM-035変異体と共通した精巣表現型が得られた。生殖細胞が枯渇する前に減数分裂開始における異常を確認するため、より若い変異体の精巣を用いて解析を行ったところ、通常の精母細胞や精子も観察されたが、PM-035変異体と同様に未分化型精原細胞で減数分裂マーカー(Sycp3)を発現している細胞が観察された。現在相補性解析を行っており、この遺伝子がPM035変異体の原因遺伝子であるか近く確認できる状況にある。 本研究では、少なくとも減数分裂開始制御に関わる因子を同定することには成功した。この因子の解析を通じて、脊椎動物における減数分裂開始機構の解明に繋がることが期待される。
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