研究実績の概要 |
トリプルネガティブ乳癌(以下TNBC)は内分泌療法や抗HER2療法の適応とならず予後が悪い。未だ明確な治療の標的を同定できていないことがTNBCにおける最大の問題点である。その要因はTNBCがheterogeneousな疾患群であること、すなわち根底にある異常が症例間で極めて多様であることにあると考えられる。我々の先行研究において、TNBCでは未分化な表現型や遺伝子発現様式は共通するものの、エピゲノム、特にスーパーエンハンサーの分布様式に多様性を認めることを明らかにしてきた(Cell Rep, 2015)。本研究ではTNBCに対する新規治療戦略を構築するための基盤データを創出することを目的に、TNBCサブクラス内でのエピゲノム多様性とその意義についての検証を試みた。 初めにLuminal型、HER2型、Basal型の各種乳癌細胞株26株を用いてATAC-seq法を施行し、オープンクロマチン領域のプロファイリングを行なった。ゲノムワイドなオープンクロマチン領域による層別化では、ER陽性あるいはHER2陽性細胞は均一なパターンを示したのに対し、TNBC株のそれは多様なパターンを呈した。その多様性を解明すべく、次にオープンなエンハンサー領域のモチーフ解析を施行したところ、各サブタイプや各細胞株に固有な転写因子モチーフを同定することができた。さらにそれら転写因子やエピゲノム因子のノックダウンとATACseq解析を組み合わせることにより、転写制御機構の細胞株ごとの多様性や各領域での多様性の一部を明らかにすることができた。これらの過程で同定された転写因子Xに関しては、公共データのTNBC症例の解析において発現量と予後との相関が認められたことから、TNBCの層別化に有用なマーカーとなりうる可能性が示唆された。
|