出芽酵母における液胞加水分解酵素Ape1は、細胞質で翻訳を受けたあと、選択的オートファジーにより液胞へと輸送される。Ape1は細胞質で巨大なApe1複合体を形成し、Ape1複合体の形成は選択的オートファジーを受けるために必須であることが知られている。本年度の研究により、精製したApe1が液液相分離による液滴を形成していること、また生体内のApe1複合体も液体の性質を有する液滴であることが明らかとなった。 液液相分離とは、ある種の蛋白質や核酸が局所濃度の高まりにより濃度の高い相と低い相に相分離を起こし、球体状の液滴を形成する現象である。液滴内の液滴構成因子は一過的な相互作用を繰り返しながらランダムかつダイナミックに動き回るため、結果として液滴は液体に似た性質を持つ。 選択的オートファジーが起きなくなる変異体であるApe1 P22L変異体を精製すると、液体の性質を失った凝集体を形成することが明らかとなった。オートファゴソーム前駆体をミミックするような巨大単一膜小胞 (GUV) を調製し、Ape1の選択的オートファジー受容体であるAtg19と加えることでオートファゴソームへの取り込み過程のin vitro再構成実験を行ったところ、液滴状カーゴである野生型Ape1の場合には、カーゴの表面に沿ってGUVが屈曲し、最終的にはGUV内部にApe1が取り込まれたが、凝集体であるP22L変異体ではGUVとのテザリングは起きるものの膜変形や取り込みは起こらなかった。以上の結果より、選択的オートファジーのカーゴの状態が”適切”であることがオートファゴソームに取り込みに重要であることが明らかとなった。
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