研究課題
本年度は主に気相反応に関わる数値モデルの構築・シミュレーション、及び実験データとの比較解析を進めた。第一に、最新のMaster chemical mechanism (MCM) v3.3.1に基づく気相反応モジュール、及び構造活性相関に基づく物理化学特性予測ソフトウェア(SPARC)の推計による飽和蒸気圧を用いたエアロゾル生成モジュールを結合させたボックスモデルを構築するとともに、室内実験の模擬シミュレーションを実施した。OH反応性に対する揮発性有機化合物(VOC)と半揮発性有機化合物(SVOC)の寄与を評価したところ、実測されたVOCではOH反応性を説明できないのに対して、MCMで計算されたSVOC(主にVOC酸化生成物)を考慮することで概ねOH反応性を再現できることを明らかとした。第二に、半経験的モデルである揮発性基底関数(VBS)モデルを基に二次有機エアロゾル(SOA)の生成実験や希釈応答実験の模擬シミュレーションを実施してSOA生成におけるダイマー生成の寄与を評価した。その結果、重合反応によるダイマー生成を考慮することで希釈に伴う蒸発速度を再現可能であることが分かり、この計算結果は化学分析に基づくダイマーの測定結果とも整合的であった。第三に、酸素数を考慮した二次元VBSモデルを用いることで、SVOCの多段階酸化反応における官能基付加反応・分解反応のそれぞれの寄与を明示的に計算可能とした。
2: おおむね順調に進展している
第一に、詳細な化学反応を計算する気相反応モジュール(MCM v3.3.1)にエアロゾル生成モジュールを結合することで、SVOCがOH反応性やSOA生成能に与える影響を評価可能とした。第二に、半経験的モデルを基に、SOA生成・蒸発特性に対するSVOC重合反応や多段階酸化反応の寄与を評価可能とした。これらのモデル構築により、今後は実測データとの比較解析を進めることでOH反応性やSOA生成能に対するSVOCの寄与、及びSVOC反応メカニズムを評価可能とした。このように、研究は初年度の計画通りに概ね順調に進んでいる。
液相反応と重合化反応をモデル化する。第一に気相反応メカニズムMCMと液相反応メカニズムCAPRAMの有機成分を対応させるとともに、CAPRAMで考慮されている化学成分の熱力学特性(飽和蒸気圧と活量係数)を整理する。これらのデータを基に、液相反応メカニズムに基づく数値モデルを構築する。また、重合反応計算に用いる重合体の生成・分解速度を決定するために、重合体の生成・解離の自由エネルギーを整理して、数値モデルに組み込む。合わせて、これら粒子内反応も半経験的モデルに反映することで、これまでほとんど扱われていない粒子内の多段階酸化反応を現実的に計算する。
雇用していた特別研究員の退職に伴い、予定額を執行できなかった。繰越分はH30年度の派遣技術員の賃金などとして使用する予定である。
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