研究課題/領域番号 |
17K18346
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
野村 晃敬 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 研究員 (30746160)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウム空気電池 / カーボンナノチューブ / 空気極 / 超高容量 / 蓄電池 |
研究実績の概要 |
電気自動車や再生可能エネルギーの普及には、大量のエネルギーをコンパクトかつ低コストに蓄えることができる蓄電池が必要とされている。リチウム空気電池は、原理上は現在のリチウムイオン電池と比べて10倍超のエネルギー密度をもち、極めて高容量なセルを作成しうる。ところが実際のリチウム空気電池セルでは、カーボン正極(空気極)に析出する放電生成物による目詰まり・不動態化などの問題から、大きな容量を引き出すことは難しい。その中で、シート状のカーボンナノチューブ(CNT)を空気極に用いたセルでは、従来より非常に大きな放電容量を取り出せることがわかっていた。平成29年度は、CNTシート空気極がセルの高容量化に有効に働くメカニズムを検討した。 まず、放電中におけるCNTシート空気極への放電生成物の析出過程を詳しく調べた。その結果、放電生成物の析出によりCNTシート空気極自体が膨張することに加え、電極を構成するカーボンファイバー製のガス拡散層(GDL)の内部にもCNTバンドルが進入し、GDLの空孔にも放電生成物の析出を可能にすることで、放電容量を引き伸ばしていることが分かった。 これを元に、セルを構成するCNTシートとGDLの厚さ・構造を調整したところ、申請当初は30mAh/cm2程度(リチウムイオン電池~2mAh/cm2の15倍程度)得られていた放電容量は、86mAh/cm2まで上昇し、CNTシート/GDLの組み合わせ次第でほぼ際限なく引き伸ばせることを実証した。 また、CNTシート空気極に析出する放電生成物の多角的な分析と定量をおこなったところ、これまでにない高容量の放電時においても、放電量に対してほぼ過酸化リチウムが定量的に発生していることがわかった。すなわち、CNTシート空気極を用いたリチウム空気電池セルが確かに「リチウム空気電池」として機能し、放電していることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、CNTシートを空気極に適用したリチウム空気電池セルにおいて、1.CNTシートがなぜ、どのようにセルを高容量にできるのか明らかにし、2.高容量かつ安定なリチウム空気電池セルを設計することを目標にしている。 その中で、CNTシートがセルを高容量化させるメカニズムについては、不織布状で柔軟かつ強靭なCNTバンドルで構成されるCNTシートの特徴に由来して理解できるものであることがわかった。すなわち、従来の通常のカーボン空気極では、電極として取り扱うためにカーボンどうしを強固に結合させる必要があるが、それゆえ放電反応にともなう放電生成物の析出は電極内にある相対的に小さなすき間に限られる。一方でCNTシート空気極は、シート自体が膨張することで原理的にはいくらでも放電生成物の析出は可能になり、従来の電極のような空孔による容量制限はない。これらのことから、1.の目標はほぼ達成できたものと考えている。さらには、CNTシートへの放電生成物の析出がしやすいような電極構造を調整することで、ほぼ無制限に放電容量を引き伸ばせることを実証できたことは、当初の目標以上に得られた成果である。 一方で、絶縁性の放電生成物(過酸化リチウム)がどのようなメカニズムでCNTシートを構成するCNTバンドル周りに大量析出できるのかについては、必ずしも明らかにできておらず、今後も引き続き検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
CNTバンドル周りに大量析出する放電生成物(過酸化リチウム)の析出機構について、微量の水分や電解液中の微量の添加物が充放電挙動及び析出物形状に与える影響を系統的に調べる、また、放射光を利用した析出物の電子状態の分析を行うことで明らかにしていく予定である。これによって、第一研究目標であるCNTシート空気極がリチウム空気電池セルを高容量化するメカニズムの総合的な理解を進めたい。 また、第二研究目標としてCNTシート空気極の適用による高容量かつ安定なリチウム空気電池セルの設計を目指しているが、このうちセル容量と放電電圧については1年目で目標以上の進展が得られている。このことから、今後はセルの充放電サイクル特性や出力レート特性の改善を図るべく、CNTシートの構造に加えて電解液・負極の組み合わせによる充放電特性の影響を検討していく。
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