研究課題/領域番号 |
17K18347
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
増田 秀樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, NIMSポスドク研究員 (10707996)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電位計測 / リチウム計測 / リチウムイオン二次電池 / 固体電解質 / ケルビンプローブフォース顕微鏡 / ToF-SIMS |
研究実績の概要 |
全固体型リチウムイオン電池の課題である低出力密度の要因のひとつとして、電極-電解質界面での高いイオン伝導抵抗が挙げられる。この抵抗には、界面に形成する空間電荷層が関与していると考えられる。本研究では断面計測を用いてこの界面にアクセスし、電位とリチウム計測を行う表面分析手法によりその原理の解明を試みる。これにより電位とLi強度を対応させた知見を得ることを目的とする。H29年度は、様々な固体電解質試料のケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)計測を行う予定であった。しかし、測定系の雰囲気制御の強化を優先するべきと判断したため、一部計画の順序を変更して研究を実施した。 H29年度は、一括焼結して作製したある全固体Liイオン電池を断面化し、その断面にてToF-SIMS計測を行った。これにより、複合正極中の元素分布や電池動作中のLi元素分布変化に関する知見を得ることを試みた。ToF-SIMSのチャンバー内で電池の充放電サイクルを行い、各動作の前後で計測を行った。Liカウントの変化を解析した結果、正極活物質では電池の動作に対応したLiの増減が見られた。さらに固体電解質では初回充電時にLiが減少する様子が見られた。この固体電解質についての結果はKPFM法を用いた電位分布計測の結果と一致している。 しかしながら、いくつかの試料において同様の断面化を行ったところ、電池動作に対するLiの変化には定性的なばらつきがあり、再現性が良くないことが分かった。この課題を解決するために、ToF-SIMS計測を行う直前に、Gaイオンビームを用いて、都度観察表面を10nm程度ミリングする手法を試みた。この処理により表面層を除去することで、電池動作に対するLiの変化は定性的に再現性よく得られるようになった。残された課題として、この処理が定量性に及ぼす影響を調査・補正することが求められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は、全体計画の中からToF-SIMSその場計測用の大気非暴露対応システムの作製とその場Li計測、および全固体型リチウムイオン電池のモデル試料を用いたその場ケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)手法の開発を行った。当初の次年度の計画であったLi計測が、初年度に実現した点は、計画よりも進展している点である。一方、その場KPFM法の開発においては、雰囲気制御機能の強化の必要性が明らかになった。このため当初のH29年度計画のうち、KPFMを利用して行うもの、特に種々の固体電解質に対する仕事関数計測はH30年度に行うこととした。計画全体としては、モデルとなる全固体型リチウムイオン電池デバイスにおいてLi分布・電位分布その場計測という大きな進捗が得られている、おおむね順調な進展を見せていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の計画のうち、その場ToF-SIMSを用いたLi計測については、H29年度中に大きな進展があった。H29年度の成果から、ToF-SIMSのその場計測においては、表面損傷の除去が、得られるデータの再現性・信頼性を向上するために必要であることが分かった。一方でこのことは、断面化処理の際に試料断面が受けるダメージが再現性がないことを示唆している。そこで今後は、断面試料時のダメージの制御も検討する必要がある。 H30年度は、まずグローブボックスAFMの雰囲気制御の強化といったケルビンプローブフォース顕微鏡の実験系の整備を行い、その後、H29年度に実行できなかった固体電解質の電位計測を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、H29年度に、試料作製に使用するトランスファーベッセル等を購入する予定であった。しかし、特に嫌気性の高い試料に対して、グローブボックスAFMの不活性雰囲気制御を強化する必要性が明らかになった。このため、グローブボックスAFMの実験系を改良する必要が生まれ、改良に必要な当該部品等をH29年度中に購入した。しかし一部の部品に関しては、仕様の決定・選定に時間を要し年度内の納入が難しかったため、当該額を次年度に使用することとした。
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