本研究の目的は、中小規模の非住宅建築物を中心に多く採用されているが、未だそのエネルギー消費特性には不明な点が多いマルチ形パッケージエアコン(1台の室外機に複数台の室内機を接続して冷暖房を行うシステム)について、処理熱量の偏在による効率低下を考慮した新たな設計評価手法を開発することである。まず、国立研究開発法人建築研究所内にある「業務用空調システム性能評価施設」にてマルチ形パッケージエアコンの運転データを取得し、実働負荷試験状態における実態性能の把握を行った。本研究では定格能力が22.4kW(8HP)である国内メーカー製のエアコンを対象とし、5.6kWの室内機を4台接続した状態で試験を行った。試験結果より、処理熱量に偏りがある場合は、運転効率は低下する傾向があることが分かり、今回の試験条件では、冷房運転時に最大で20%程度、暖房運転時に最大で15%程度の効率低下が見られた。また、たとえ室内機を停止していても運転効率は低下することが分かった。次に、処理熱量の偏在による効率低下を推定するシミュレーションモデルの開発を行った。本研究では、実験室で行った実験結果を元に、室内機最大負荷率(運転している室内機の負荷率のうち、最も大きい負荷率)と冷媒圧力(暖房時は凝縮圧力、冷房時は蒸発圧力)には正の相関があること、また、冷媒圧力と運転効率にも正の相関があることを明らかにし、これを元に処理熱量偏在時のエネルギー消費効率を推定する方法を開発した。このモデルをエネルギーシミュレーションに組み込み、任意の設計条件において処理熱量の偏在による効率低下を考慮したうえでエネルギー消費性能を評価する手法を構築した。
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