研究課題
脊椎動物進化の中で、さまざまな生態に応じた筋骨格系が進化してきたが、進化史の大部分においては共通する「筋の基本セット」の変形としてしか進化してこなかった。なぜそのようなことが続いたのかという謎を解く鍵は、個々の筋のアイデンティティーをつくり出す発生のしくみにあると予想される。この問題のうち、本研究では、筋とそれを支配する脊髄神経の関係も進化上ほとんど変化がなかったことに注目し、その関係が胚発生のなかでどのようにできあがるのかを解明することを目指している。今年度は、羊膜類(マウス、ニワトリ)、両生類(アホロートル)の胚、幼生について、主に組織切片上で、発生中の前肢における神経軸索と筋芽細胞の位置関係の観察を進めた。特にニワトリ胚に関しては、前肢筋前駆細胞を生じる各体節をウズラの同レベル体節と交換移植し、筋が分化した後(HHステージ30)でウズラ由来細胞の分布を観察することで、単一の体節から生じた筋前駆細胞が最終的にどの筋に分化し、それは同レベルの脊髄神経とどのような関係性があるのかを調べる実験を展開した。これによると、各筋は複数の体節に由来する細胞からできるが、どの体節に由来する細胞の寄与が多いのかはそれぞれの筋ごとに異なっており、それはその筋を支配する脊髄神経のレベルとある程度対応していることが示唆された。本研究では、前肢筋の研究と平行して、カメ(スッポン)の背筋を研究対象にしている。胴部の背筋を進化的に失ったカメでも背筋が一過性に発生することを私は2013年に報告しているが、今年度、各発生ステージの胚の動画を撮影し、背筋が機能することがあるのかを確認したところ、TKステージ12~14の胚で、頚部の運動とは連動していない胴部の胎動が観察された。したがって、スッポンの背筋と運動神経の結合も一過性につくられると予想される。
2: おおむね順調に進展している
四肢動物胚における筋の発生過程、特に筋芽細胞集団から個々の筋に分かれる過程の観察は進展させることができた。また、発生学、比較解剖学の古典文献を調べ、ハイギョを含む非モデル生物における筋と神経の発生の記載に関するデータを集めた。20世紀初頭に唱えられた腕神経叢の進化的起源に関する仮説(ドイツ語で書かれていることもあり、現在の学術界ではほとんど忘れられている)の中には、本研究でも再検討すべきものもあり、次年度の研究の方向性を当初より絞ることができるようになった。しかし、今年度は、別の研究課題において大きな発見につながる成果が出始めその時期のエフォートを変更せざるをえなかったため、トラザメを用いた鰭の筋の発生過程の観察は次年度以降に行うことにした。
四肢動物胚における観察を完了、トラザメの鰭の筋の発生過程の観察も行い、筋とそれを支配する脊髄神経の関係が胚発生のなかでどのようにできあがるか、その基本的なルールを調べる。スッポンの背筋とそれを支配する(はずの)脊髄神経の一過性の発生も、この「ルール」を推測するのに役立つと予想している。さらに、その推測を検証するため、ニワトリ胚を用いた実験(適切な発生段階を狙った筋前駆細胞や神経軸索の擾乱等)を展開する。また、初期四肢動物の前肢筋パターンがどのようなものであったのかについて、文献や化石標本からデータを集め、鰭から四肢への進化、特に腕神経叢の進化的起源を明らかにしていく。
別の研究課題において予想外の成果が出始め全体の研究計画を見直し、海外の研究機関における化石標本の調査およびディスカッション、一部の実験を次年度以降に延期したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、平成30年6月に計画している中国科学院古脊椎動物・古人類研究所(北京)での調査および、同年秋に計画しているアメリカ自然史博物館(ニューヨーク)での調査、分子生物学試薬に使用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Developmental Biology
巻: in press ページ: -
10.1016/j.ydbio.2018.01.017
Nature Ecology & Evolution
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