研究課題/領域番号 |
17K18354
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平沢 達矢 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (60585793)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 進化 / 発生 / 脊椎動物 / 四肢筋 / 相同性 / 腕神経叢 / 化石 |
研究実績の概要 |
本課題では、脊椎動物進化において個々の骨格筋の相同性がよく保存されてきたメカニズムについての理解を進めるために、筋とそれを支配する脊髄神経の関係が胚発生のなかでどのようにできあがるのかを調べている。今年度はまず、四肢筋に関して化石記録からたどる進化過程および胚発生において個々の筋に分化するまでの発生過程について現時点までの理解についてまとめた総説論文を発表した。前年度に進めたニワトリ-ウズラ間体節移植実験により、前肢筋の各筋は複数の体節に由来する細胞からでき、その体節の範囲は筋を支配する脊髄神経のレベルと大まかに対応していることが分かってきていたが、上記総説論文執筆時に集めた過去の発生過程や形態の記載やトラザメ胚における観察と比較すると、この筋-神経対応関係は祖先のヒレにあるものまで遡れる可能性が見出された。四肢動物では頭方の脊髄神経は近位を、尾方の脊髄神経は遠位を支配し、ニワトリ胚の実験では支配される筋をつくる細胞の体節レベルもこれと対応するが、これはヒレにおける筋・神経パターンが骨格発生軸の方向の進化的変化とともに変化したものであるらしい。 また、ニワトリ胚における筋・神経の発生過程の精密観察を進める中で、鳥類系統で新たに獲得された前翼膜筋という翼の前縁に張る筋が、肩側では三角筋の筋芽細胞の一部、手首側では橈側手根伸筋の筋芽細胞の一部から形成されていくらしいことを発見した。この筋は、進化的にほぼ保存されている相同な筋セットの中から新たな筋が進化するメカニズムを理解する上で重要である。また、その進化過程を調べるため、中国科学院古脊椎動物・古人類研究所(北京)で化石標本の観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ニワトリ胚における実験および観察、過去の発生学、形態学の記載の比較を通じて、四肢筋における各筋が由来する体節とそれぞれを支配する脊髄神経のレベルの対応関係は、ヒレにおける筋-神経対応関係からの連続的変化と見られることを立証しつつあるという点では進展があったが、別の研究課題で予想以上の進展があったため、当初計画にあった発生の擾乱実験は完了していない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今年度新たに発見した鳥類の前翼膜筋の発生過程について、それを支配する神経がどのタイミングで発生するかについて精密観察を進める。 また、ニワトリ胚で相同な前肢筋セットとそれを支配する神経が発生するしくみに対して、移植により肢芽とその内部の筋芽細胞の前後軸を逆転させる擾乱実験を行い、その応答を調べる。その後、これまでの実験、観察と合わせて、国際誌へ論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
別の研究課題において予想以上の進展があったため研究計画を見直し、一部の実験を次年度以降に延長したため、次年度使用額が生じた。四肢筋の「安定的な相同性」に関わる発生機構について解明への糸口をつかみつつあるが、それをさらに精緻に検証するために、さらに追加で発生学実験(擾乱実験)を行う必要がある。次年度使用額は、発生学実験に使用する分子生物学試薬および機器、海外博物館における化石標本調査に使用する。
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