本研究では、脊椎動物進化において筋の相同性が保たれてきたしくみについて、筋とそれを支配する脊髄神経の関係も進化上ほとんど変化がなかったことに注目し、その関係が胚発生の中でどのように確立するか、そしてそれはどのような進化的変化が可能なのかを探ってきた。特に、鰭から手足への劇的変化以降、基本形態パターンの進化的保存性が高い四肢筋に注目した研究を展開してきた。 最終年度は、ニワトリ胚を用いた発生擾乱実験および初期四肢動物の化石記録に関する研究を中心的に行なった。前者の実験では、ニワトリ胚HHステージ23で筋前駆細胞を含む前肢芽を異所的に移植し、異なる胚環境に置かれたときにその後個々の前肢筋がどのように発生するかを、MyoD、scleraxisをそれぞれ筋芽細胞、腱前駆細胞のマーカー遺伝子とした組織切片ISHにより解析した。移植前肢に対して腕神経叢が発生しない実験胚も作出したところ、個々の前肢筋もほぼ正常に近い形態形成が確認された。これは、均一な(均一に見える)筋前駆細胞集団から個々の筋の集団へ分かれていく初期過程において、伸長中の脊髄神経軸索との相互作用は重要な役割を果たしていない可能性を示唆する。一方、先行研究により筋発生の後期では発生中の脊髄神経軸索との相互作用が確認されている。したがって本研究により、個々の筋のアイデンティティー成立と神経軸索との相互作用のタイミングに関して理解を進めることができたと言える。また、初期四肢動物を含む古生代化石標本の研究を続ける中で、手足を備えた初期四肢動物と共通する派生形質を持ちながら、幼生型の特徴を示し手足や対鰭を欠く中期デボン紀の化石脊椎動物を認めた。これは、昨年度に本研究の一環として発表した総説論文で提唱した幼生型の獲得と腕神経叢を持つ四肢の進化的起源との関連性についてサポートする化石記録となる可能性がある。
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