研究課題
当該年度は、交付申請書に記載した通り、β-Mn型構造を有する高温カイラル磁性体Co-Zn-Mn合金のスキルミオンの研究を行い、以下のような成果が得られた。①400K付近に磁気転移温度Tcを持つCo9Zn9Mn2おいて、Tc直下の熱平衡スキルミオン相を通って磁場中冷却することで、室温以上かつゼロ磁場を含む広範囲の温度-磁場領域に準安定スキルミオンが形成されることを明らかにした。また、この準安定スキルミオンの寿命は室温でほぼ無限大になることも確かめた。室温ゼロ磁場でのスキルミオンの発現は、これまでに薄膜界面では報告されているが、バルク試料内部での観測は今回が初めてであり、今後のスキルミオンの応用に大きく貢献すると考えられる。この成果に関する論文はPhys. Rev. Materialsに掲載された。②すべてのMn濃度xでβ-Mn型構造を有する(Co0.5Zn0.5)20-xMnxにおいて、β-Mnのフラストレーションに由来するスピングラス相が非常に広い範囲に存在し、3<x<6.5ではヘリカル磁性相との共存領域を伴うことを明らかにした。また、中間組成Co7Zn7Mn6において、Tc付近の通常の熱平衡スキルミオン格子相とは別に、低温のスピングラス転移温度付近に3次元的に激しく乱れたスキルミオンが熱平衡状態として出現することを発見した。一般的に、カイラル磁性体にけるスキルミオン格子相は熱揺らぎによって安定化されるが、今回発見した低温の新奇スキルミオン相は、Mnスピン間のフラストレーションがもたらすスピン揺らぎによって安定化されたと考えられる。これらの成果に関する論文は現在査読中である。
1: 当初の計画以上に進展している
①交付申請書記載の【研究計画1.Co-Zn-Mn合金の純良単結晶試料の作製】について、大型かつ純良な単結晶試料を様々な組成について作製することに成功した。②交付申請書記載の【研究計画2.Co8Zn8Mn4の四角格子スキルミオンの追求】について、磁場方向を結晶の<100>軸から傾けた状態で小角中性子散乱測定を行うことにより、四角格子スキルミオンの発現は強い結晶磁気異方性が関係していることを明らかにした。③交付申請書記載の【研究計画3.Mn低濃度領域で予想される室温・ゼロ磁場へのスキルミオン形成の実現】について、当初の予想通り、室温以上かつゼロ磁場を含む広い範囲にスキルミオンが存在できることを明らかにした。また、薄片試料に対するローレンツ透過型電子顕微鏡観察により、室温ゼロ磁場でのスキルミオンの実空間観察にも成功した。④交付申請書記載の【研究計画4. Mn高濃度領域で予想されるカイラルスピングラス・スキルミオングラスの研究】について、Mn高濃度領域においてヘリカル磁性相とスピングラス相の共存領域が存在することを明らかにした。また、Co7Zn7Mn6において3次元的に乱れたスキルミオンが低温で安定して存在することを様々な測定手法(小角中性子散乱、交流磁化率、ローレンツ透過型電子顕微鏡)を駆使して明らかにした。
【方針1.Co10Zn10の研究】これまでにCo-Zn-Mn合金で観測されている、スキルミオンの強い準安定性、四角格子スキルミオン、スピングラス相などはMnが重要な役割を担っていると考えられる。これらを確かめるためには、Mnを含まないCo10Zn10の研究が不可欠である。既に単結晶試料を得ており、今後、小角中性子散乱や交流磁化率測定を行う。【方針2.メモリー効果測定によるスピングラスの研究】Co-Zn-Mn合金のスピングラスの微視的機構を明らかにするために、メモリー効果測定を様々な組成に対して行う。メモリー効果は冷却時の待ち時間や温度を記憶した現象であり、スピングラスの複雑なエネルギーランドスケープの情報を引き出すことができる。【方針3.Co6.75Zn6.75Mn6.5の研究】Co6.75Zn6.75Mn6.5は、ヘリカル磁性相が消失する臨界点近傍に位置する組成であり、新奇なスキルミオン状態が発現する可能性がある。既に単結晶試料を得ており、今後、小角中性子散乱測定やローレンツ透過型電子顕微鏡観察を行う。
次年度使用額が生じた理由は、前年度に予定していた物品(測定装置)の購入を見送ったためである。この繰越費用は、本年度の物品購入に充てる予定である。
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Physical Review Materials
巻: 1 ページ: 074405
https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.1.074405