研究課題/領域番号 |
17K18357
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
稲葉 岳彦 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (60611994)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 転写因子NFκB / 1細胞ライブセルイメージング / RNAポリメラーゼ / ヒストンアセチル化 / トランスクリプトーム / スーパーエンハンサー |
研究実績の概要 |
ニワトリリンパB細胞DT40を用いて、1細胞レベルで、転写因子NFκBの集合体形成のライブセルイメージングを行った。NFκBは転写因子であるため、観察に続いて細胞回収して転写解析を行うことで、NFκBの顕微鏡下でのふるまいとNFκBの制御下にある遺伝子発現の相関を一貫して明らかにすることを目指している。既に、高速共焦点顕微鏡を用いたライブセルイメージングの結果、刺激を受けた細胞の核にNFκBが移入すると、集合体を形成することを明らかにしており、この集合体の形成過程の解析と、この集合体の細胞における役割を調べた。 1.集合体を転写開始部位と考え、数の変化を調べたところ、刺激後に集合体の数が増加した後、減少していた。 2.集合体と共局在する転写関連因子の共局在を調べたところ、ヒストン3のアセチル化部位、転写のメディエーター、RNAポリメラーゼとの局在が、ほぼ一致する場合と、部分的に一致する場合があった。 3.集合体の局在と遺伝子座の位置関係を調べるために三次元FISH法を用いて、NFκBの制御下にあると予想される遺伝子座の標識を行った。 4.細胞観察後に連続して細胞を採取する装置のセットアップを行った。 これらのことから、集合体は活性化されたエンハンサーや転写開始複合体の形成に重要な因子と共局在し、転写に重要であると考えられる。FISH法からはNFκBの制御下にあると予想される遺伝子座とその染色体を標識可能なプローブを完成させた。本年度は、集合体の輝度や数の変化を追跡して、同一の細胞を回収し転写レベルの比較へと進む計画である。研究成果は、国内シンポジウム、国内学会、研究会において発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、刺激に対する細胞の応答をNFκBの輝点形成として捉え、輝度や数、時間変化を取得するための高速な共焦点顕微鏡システムを構築した。 多数の細胞からなる輝点の情報は、それぞれの細胞の応答レベルの指標として利用可能であることが分かった。輝点が形成するかしないか、つまり応答するかしないかについては、刺激の入力の強さに対し、スイッチ様の応答をしていた。応答した細胞に関して、個々の細胞の輝点の数に注目すると、刺激の入力の強さに関係なく、幅広い分布を持つ集団で構成されていた。 平成30年度までに、1細胞のハンドリング装置を共焦点顕微鏡に設置し、細胞回収が可能になった。当初の予定では微細加工基板を利用する予定ではあったが、適切な細胞密度で観察することで基板の助けなしに細胞回収ができることが判明したため、そのまま回収を行うことにした。 平成31年度では、顕微鏡観察から直ちに細胞回収を行い、転写解析を行うことで、NFκBの輝点形成という細胞の応答と実際の転写応答が対応するかをリンクさせて解析する。
|
今後の研究の推進方策 |
核内に形成される巨大な転写因子の集合体(クラスター)が、アクティブエンハンサー、ポリメラーゼやメディエーターと共局在することが確認された。そのため、クラスターが実際に転写応答の制御に重要であると予想される。細胞回収装置のセットアップがほぼ終了したため、ライブセルイメージングに続けて細胞の回収を行うことが可能になり、当所の予定通り1細胞ごとの状態評価を顕微鏡で行い、続いて個々の転写応答レベルを解析していく。特に、転写因子クラスターの数と高発現レベルの遺伝子の数の解析を行うことで、ほとんど同一の遺伝子背景をもつ細胞群から、どのように多様な転写応答を実現するのかを明らかにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
基金制度を利用して、柔軟な研究計画を行った。具体的には、細胞回収後の解析に必要な費用などのために次年度に使用する。
|