がん細胞が薬剤耐性を獲得する過程は、治療前の安定生存が可能な状態から、抗がん剤の暴露により様々な状態の細胞が出現し、後に生き残った耐性細胞が別の生存状態を保つ一連の変化と捉えることが出来る。本研究は、どの分子の発現や活性化状態がどのタイミングで不均一になるかを1細胞計測実験と多変量解析を用いて計測し、一連の過程を数理モデルにより理解することで、乳がん細胞が抗癌剤耐性を獲得する過程における細胞集団内のばらつき(=不均一性)がもたらす意義に関する新たな知見の取得を目的とする。 これまで本計画において、ER阻害薬タモキシフェン(TAM)を持続暴露したヒト乳がん由来細胞の細胞増殖率の変化およびRNA-seqの結果から、投与後3週ー6週にかけて起きるG1期停止に伴ってFOXO経路およびオートファジー関連分子の発現が上昇していることを見出している。 令和元年度は、これまでの研究結果を受けて未投与群・タモキシフェン持続投与3週、6週、9週の4群の一細胞遺伝子発現解析を行なった。その結果、薬物投与後3~6週において上述のFOXO、オートファジー経路関連遺伝子の発現の不均一性が増大していることを見出した。また、9週目の耐性を獲得した細胞はヒストン脱メチル化酵素の発現が高い間葉系細胞に変化したタイプと、オートファジー活性や幹細胞マーカー発現の高いタイプの2タイプに遷移することを見出し、耐性前駆細胞から2種類の耐性細胞へ遷移する過程および制御分子が予測された。
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