研究実績の概要 |
エイコタペンタエン酸(EPA)などのω3脂肪酸は、酵素的に代謝されることにより抗炎症効果を発揮する。申請者らのグループではこれまでに、EPAのω3位がエポキシ化された17,18-epoxyeicosatetraenoic acid(17,18-EpETE)およびその二次代謝物を外因的に投与する事により炎症反応が抑制される事を見出している。しかし、これらの代謝物の生成に関わる酵素が明らかになっていなかったため、内因性に産生されるエポキシ化脂肪酸代謝物の生理学的役割は不明であった。 そこで本研究ではまず、EPA由来の機能性代謝物17,18-EpETEの生成に関わる酵素を網羅的に同定するために、ゲノムワイドな脂肪酸代謝酵素cDNAライブラリーを用いたin vitroスクリーニングを行った。その結果、110種類の脂肪酸代謝酵素ライブラリーのうち、5種類のシトクロムP450(Cyp)が17,18-EpETEを産生する事を見出した。次に、Cyp欠損マウスを用いた解析を行い、EPAの機能性発現に関わる本代謝経路の寄与についてin vivoでの解析を行った。その結果、Cyp欠損マウスでは野生型に比べ、組織内17,18-EpETE産生の減少が認められた。さらに、Cyp欠損マウスでは時間の経過とともに、皮膚組織における局所的な異常所見(表皮肥厚・炎症性細胞浸潤)や、リンパ節肥大が認められた。Cyp欠損マウスでは乾癬病態マーカーの上昇・IL-23/IL-17 axisの活性化が認められたことから、このマウスでは乾癬様皮膚炎が自然発症することが示唆された。即ち、生体内においてもCypがω3脂肪酸の代謝に寄与しており、そこから生成する機能性代謝物が組織恒常性の維持に関与していることが考えられる。今後、Cyp欠損マウスで認められる表現型とω3脂肪酸代謝系との関係を分子レベルで明らかにしていきたい。
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