本研究課題では、設計膜貫通αヘリックス会合体の形成機構を、計算機を用いた動的構造計算と実験により得られる静的構造情報を活用し解明することを目的とする。R2年度はαヘリックスペプチドが水中から膜表面に結合する過程について分子動力学計算により詳細に検討し、再設計ペプチドの合成・脂質二重膜中での構造解析の試料調製の検討を行った。 本研究では脂質二重膜中で安定な8量体ポアを形成する人工設計αヘリックスペプチド(cWzaペプチド)を対象として会合機構の解析を行った。これまでの計算では、膜表面近傍に配置した伸長ペプチドを初期構造とし、レプリカ交換全原子分子動力学計算を行いてペプチドの膜への接触を観測したが、二次構造形成の解析にはさらなる計算時間と計算パラメータの調整が必要であった。そこで本年度はレプリカ交換法の計算パラメータの検討に加え、昨年度に準備した脂質の拡散が加速される膜モデルを用いた計算を行った。初期構造はαヘリックスペプチドを用いて膜に対して4種の初期配置を準備し、各200ns計12本の独立した計算を実施した。計算結果から膜に接触する際に鍵となるペプチド部位、結合時の構造について解析を行い、その結果をもとにペプチドの配列再設計を行った。さらに再設計ペプチドおよびオリジナルのcWzaペプチドを合成し、リポソームを用いた円偏光二色性スペクトルによる二次構造解析、単一チャネル電流測定による機能解析を行うための試料調製条件を検討した。今後、構造・機能解析と計算結果との比較を行うことで、標的ペプチドの強固なへリックス-ヘリックス相互作用に寄与するアミノ酸配列が明らかになると期待される。 また平行してde novo設計ペプチドチャネルの構造モデル最適化を分子動力学計算を用いて行い、これを含めた研究成果を学会にて発表した。
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