本研究は、炭素線治療を受けた患者の医療被ばくの原因となる二次中性子に着目したものであり、特に、2次がんリスクモデル構築に不可欠な生物実験を実現するためにエネルギースペクトル可変中性子照射場の概念設計と実験的検証を行うことを目的としている。 令和2年度においては、これまでに構築したモンテカルロシミュレーションを実験的に検証する照射場を用いて、高エネルギー中性子線量計:WENDI-II、Bonner Sphere検出器、Tissue Equivalent Proportional Counterを用いた線量測定、中性子エネルギースペクトル測定、線質測定を昨年度から継続し行った。 測定によりシミュレーションで確認した高エネルギー中性子フィルター、低エネルギー中性子フィルターの組み合わせ及びビーム軸からの角度を変更することで1MeV付近、100MeV付近のピークを変化させることが可能なことを実験的に示し、中性子エネルギースペクトルの可変性を実証した。また、計算値は実験値を過大評価する傾向が観察された。これは、熱中性子領域など低エネルギーになるほど顕著であり、シミュレーション計算における室内散乱の模擬に改善が必要であることを示唆した。しかしながら、これは本研究の目的である中性子エネルギースペクトルの可変性には影響しないと考える。 本研究成果は、第118回日本医学物理学会学術大会、3rd International Conference on Dosimetry and its Applicationsで学会発表すると共に、Radiation Physics and Chemistry誌において原著論文(DOI:10.1016/j.radphyschem.2020.108787)として発表した。
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