小脳プルキンエ細胞への登上繊維入力を可視化とその活動パターンの分析を目的として、マウスを用いカルシウムイメージングをおこなった。アデノ随伴ウイルスを利用してマウス小脳のプルキンエ細胞特異的に蛍光カルシウムプローブ(GCaMP6f)を発現させ、登上線維入力に伴うカルシウムスパイクを麻酔下および覚醒状態で計測した結果、電気生理実験と同様に、体性感覚刺激および大脳皮質運動野の電気刺激の双方に対してカルシウムスパイクを生じるセグメント(プルキンエ細胞群)がCrus Iにおいて確認された。また、Vermis VIおよびCrus Iにおいて隣接するセグメントではカルシウムスパイクが生じるタイミングが極めて近く、離れるほどタイミングの相関が低くなることが分かった。下オリーブ核において隣接する細胞は、小脳皮質の隣接するセグメントに登上線維を投射していることが推測される。下オリーブ核の細胞はギャップ結合を介して隣接する細胞と電気的に結合していることから、多数の細胞間でネットワークを構成し、このネットワークを介して体性感覚刺激や大脳皮質電気刺激に伴う入力が伝播している可能性が考えられたため、これを検証するために小脳皮質へのNeurobiotinの微量注入実験をおこなった。Neurobiotinは分子量が小さいためギャップ結合を通って拡散し、下オリーブ核内のギャップ結合を介したネットワークの広がりを分析できると考えたが、結果として下オリーブ核細胞の逆行性ラベルには適しておらず、ほとんど染色されないことがわかった。下オリーブ核内のネットワークの有無やその構造の分析については、神経トレーサーの選定も含めて今後の検討を要する。
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