動物は環境中の様々な刺激を知覚・認知し、その環境に適した行動を選択する。本研究では、実験動物であるC57BL/6Jマウスを対象に、複雑に絡まり合う環境刺激と動物の行動との関係解明を目的とする。 環境が動物に与える影響については、環境エンリッチメント研究等、幅広い分野で議論されてきた。しかしながら、それらの研究は様々な刺激を同時に呈示しており、どのような刺激がどのように動物に影響するのか検討した研究は少ない。そこで本研究では、特に音響環境に着目し、音響環境が動物の行動に与える影響について検討した。 本年度は昨年度から継続して、異なる音響環境下(熱帯雨林再生音、熱帯雨林逆再生音、ホワイトノイズ、音なし)で実施した5つの行動テスト(高架式十字迷路テスト、オープンフィールドテスト、スリーチャンバー(社会行動)テスト、強制水泳テスト、尾懸垂テスト)での行動を詳細に検討した。その結果、マウスの行動は音響環境に応じて異なることが示された。また、ホルモン計測の結果、音響環境は血中のコルチコステロンレベルにも影響を与えており、このホルモン変化は行動変化と中程度の相関があることが明らかとなった。 本研究の結果は、音響環境が動物の内分泌に影響し、すぐさま行動にも影響を与えていることを示している。本実験と同様の環境音を用いた研究では、長期の呈示で動物の寿命にも影響を与えることが確認されており、音響環境は動物の行動や状態など即時的なものから長期的なものまで幅広い効果を持つ可能性が高い。本研究の成果は、動物の様々な行動を検討する研究において音響環境を考慮することの重要性を示しており、環境エンリッチメント研究の発展にも寄与することが期待できる。
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