研究課題/領域番号 |
17K18401
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
佐柳 友規 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, 外来研究員 (00527012)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミクログリア / 自閉症 / マーモセット |
研究実績の概要 |
自閉症スペクトラムは、他者とのコミュニケーション能力や社会性などが障害される発達障害の一種である。近年自閉症患者脳でミクログリアの異常や炎症関連因子などの発現増強が報告され、自閉症の発症や病態発現におけるミクログリアの関与が示唆されている。本研究では、ヒトと同じ霊長類であるマーモセットを用いて自閉症モデルを作製し、ミクログリアを介した自閉症病態発現機序を解明することにより、ミクログリアを標的とした自閉症病態を改善する新規治療法の開発を目指す。 抗てんかん薬であるバルプロ酸をある時期に妊婦が服用すると、生まれてきた子の自閉症発症リスクが高まるという臨床報告から、げっ歯類ではバルプロ酸暴露動物の仔を自閉症モデルとして用いた研究が多く行われている。我々は胎生60日目の雌マーモセットにバルプロ酸を200 mg/kgで経口投与し、生まれてきた仔が複数の自閉症様行動異常を示すことを確認している。平成29年度は、このように作製した自閉症モデルマーモセットから複数の大脳皮質領域を採取し、生後直後、2、3、6ヶ月齢、成体の各発達段階における遺伝子発現変化をDNAマイクロアレイにより網羅的に解析し、正常発達マーモセットと比較した。また、固定脳切片を用いた解析も並行して実施した。ミクログリアは神経障害をいち早く感知して活性化し、障害部位への遊走、死細胞の貪食、炎症性サイトカインの産生など様々な作用を発揮し、種々の神経疾患に関与することが知られている。そこでまず、自閉症モデルマーモセット脳におけるミクログリアの数や形態の変化を解析した。さらに、ミクログリア機能関連分子に対する抗体を用いて、自閉症モデルマーモセットと正常発達マーモセットにおける発現変化を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自閉症などの精神疾患患者の脳内においてミクログリアや炎症関連因子の異常が報告され、精神疾患におけるミクログリアの関与が着目されている。また、ミクログリアはその突起をシナプスと直接接触させシナプス刈り込みに関与することが報告されている。自閉症スペクトラム障害ではシナプス形成に比べて刈り込みが少ないことが示されており、シナプス形成異常にミクログリアが関わっている可能性が考えられる。 我々が作製したバルプロ酸暴露自閉症モデルマーモセットにおいて、スパインの形成と刈り込みに異常が認められることが明らかとなった。そこで、自閉症脳におけるミクログリアの関与を明らかにするため、バルプロ酸暴露自閉症モデルマーモセット脳におけるミクログリアの数や形態の変化を、ミクログリアを認識する抗Iba1抗体を用いた免疫組織染色により解析した。種々の神経疾患ではミクログリアは活性化ミクログリアに変化することが知られているため、同様の挙動の変化を予想していた。しかしながら、予想に反してミクログリアの数は自閉症モデルで顕著な増加を認めず、また形態も活性化型とは異なる形態を示していた。従って、自閉症モデルマーモセット脳におけるミクログリアの数や形態の変化を詳細に把握することを優先したため、当初予定していた自閉症病態関連遺伝子の探索が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
ミクログリアは神経変性疾患や虚血などの種々の神経疾患において、神経障害を感知すると形態を変化させ、活性化ミクログリアになることが知られている。バルプロ酸暴露自閉症モデルマーモセット脳において、ミクログリアはこれまでに知られている活性化型を示さず、特徴的な形態を示すことが明らかになった。現在その詳細な形態解析を行っており、正常発達マーモセットや他の神経疾患で認められる活性化型とどのように異なるのかを示す。 平成29年度にすでに着手している、各発達段階ごとの大脳皮質領域を用いた網羅的遺伝子発現については、現在結果を解析中であり、今後その中から自閉症病態関連遺伝子を探索する。 自閉症モデルマーモセット脳において観察されたミクログリアの異常形態は、ヒト自閉症患者脳や加齢脳におけるミクログリア形態と類似しており、ミクログリアの機能異常が示唆されるため、機能関連分子の発現変化などの検討も引き続き進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
自閉症モデルマーモセット脳内におけるミクログリアの数及び形態を解析したところ、 予想と異なり特徴的な形態を示すことが明らかになったため、平成29年度は形態の詳細な解析を優先させた。形態解析は、マーモセット固定脳に対してミクログリアを認識する抗Iba1抗体を用いた免疫組織染色を実施した後、ニューロルシダという形態解析システムを使用したが、これらは当研究室に既存のシステムであるため、追加の経費は不要であった。従って、自閉症病態関連遺伝子の発現変化の検討が当初の予定よりも遅れ、平成30年度に実施する予定であるため、それに使用する新しい抗体の入手などに経費をあてる予定である。
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