研究実績の概要 |
今年度は、前年度に得られた結果から、ヒトIG-DMR繰り返し配列(hTR)を父方より遺伝したマウス(父方hTRマウス)胚におけるhTR配列のより詳細なエピゲノム状態を明らかにするため、ZFP57と相互作用しメチル化維持に重要な転写コファクターTRIM28、およびメチル化された領域のマーカーであるトリメチル化ヒストンH3リジン9(H3K9me3)の蓄積をクロマチン免疫沈降(ChIP)により解析した。その結果、TRIM28およびH3K9me3のいずれも、父方hTR配列のメチル化が回復していない個体においては母方アレルと同程度の低い蓄積レベルであったのに対し、父方hTR配列のメチル化が完全に回復した個体において有意な蓄積が認められた。このことから、父方hTR配列にはZFP57を介さずTRIM28がリクルートされる機構が存在することが明らかになった。TRIM28はDNAに直接結合せず、KRAB-ZNFとよばれる転写因子を介してDNA上に蓄積する。よって、ヒトにおいてはZFP57以外の別のKRAB-ZNFによりTRIM28がhTR配列上にリクルートされると考え、TRIM28をベイトとした酵母ツーハイブリッドスクリーニングを計画し、準備を進めていたが、最近になってヒトIG-DMRのインプリント維持に重要なKRAB-ZNFとしてZNF445が報告された(Takahashi et al., Genes Dev. 2019)。このことから、hTR配列はヒトZNF445を介してTRIM28をリクルートしている可能性が示唆された。今後は父方hTR配列とZNF445の関連性を分子生物学的に明らかにしていくことが必要である。
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