研究課題/領域番号 |
17K18415
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宇都宮 正志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (10738313)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海底地すべり / 前弧海盆 / 不整合 / 新生代 / 石灰質ナノ化石 / テフラ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,南関東に分布する新生代の地層に記録された大規模な海底地すべりと,海盆の発達過程の関係を理解することにある.具体的には,1)海底地すべり堆積物の厚さや側方分布及び岩体の起源から,それを形成した海底地すべりの規模と様式を推定する.また2)周辺地層の年代層序を精度良く明らかにして,堆積速度の急激な上昇や不整合を形成した構造運動との前後関係を明らかにする.これにより,これまで十分に明らかにされてこなかった海底地すべりと海盆発達の関係を地質学的証拠に基づいて理解でき,活動的な前弧域における海底斜面の長期的な安定性評価につながる. 本年度の計画は,1)昨年度に引き続き房総半島の更新統に挟在する海底地すべり堆積物について網羅的に調査を行い,層位と側方への広がり及びそれらの起源を調べることと,2)昨年度採取した大深度ボーリングコア試料の微化石・火山灰試料を分析することであった.1については,上総層群下部の海底地すべり堆積物を,その特徴から2種類ないし3種類に分類し,それらの形成過程を論文化した(印刷中).2については房総半島の更新統黄和田層から多数のガラス質テフラ層を記載し,その層序関係と岩石学的特徴及び主要・微量元素組成を共同研究者とともに明らかにした.また,千葉市のボーリングコアの深度2000 mから新たに発見されたガラス質火山灰層の岩石学的特徴と化学組成の分析を行い,石灰質ナノ化石層序を併用して房総半島の陸上に露出する上総層群中のテフラと対比を行った.以上の内容についてはカナダで開催された海底地すべりの国際シンポジウムはじめ国内外の学会で発表を行なうとともに,一部は論文として印刷中である.本年度の補助金は主に上記の研究を遂行するための火山灰分析と試料処理の人件費及び学会参加のための渡航費に充当された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は房総半島更新統の海底地すべり堆積物の分類と形成過程に関して論文化することができた(印刷中).また房総半島の更新統黄和田層のテフラ層序を明らかにし,共同研究者とともに論文を準備中であるほか,千葉市のボーリングコアから層序の決め手となるガラス質火山灰層を見出すなど複数の成果が得られた.カナダで開催された海底地すべりの国際シンポジウムはじめ国内外の学会で成果発表を行なった.以上から,概ね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進捗をふまえ,堆積速度の精密な見積りや不整合の認定のためには前弧域の複数の堆積盆でテフラと微化石層序による層序対比を行う必要があることがわかった.また,構造運動の時期を制約する断層のマッピングとその活動史を復元する必要もある.今後はこれらの研究課題に取り組むことで堆積盆の発達史の中に海底地すべりイベントを位置付けることを目指す.予算はテフラの分析と成果公表のための旅費等に重点的に当てることで,効果的に研究を遂行し成果発表を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
テフラの層序学的検討と化学分析を行うテフラ選定を優先したため分析費を繰り越す必要が生じたほか,海外渡航費用が当初予想より抑制できた.次年度はこれまで採取した試料分析と海外での成果発表に効率的に使用する.
|