前年度までに、膵β細胞株MIN6に高発現するNMDA受容体サブユニットNR2B特異的遮断により、培養液中のインスリン濃度が約10倍上昇することが明らかとなり、そのインスリン分泌量の増加は、タンパク質のリン酸化促進によって約半分にまで抑制されることが明らかとなった。さらに、NR2B遮断薬Ro25-6981添加後に細胞内カルシウムイオン濃度が上昇したため、NR2Bサブユニット遮断後に、細胞内カルシウムイオンの増加あるいはタンパク質リン酸化を介してインスリン分泌が亢進することが示唆された。以上の結果を踏まえ、今年度はNR2Bノックダウンを行った。その結果、NR2B shRNA添加により、MIN6のインスリン分泌量は増加した。さらに、インスリンとは逆に血糖を上昇させるホルモンであるグルカゴン分泌に対するNMDA受容体の作用を検討した結果、NMDA受容体遮断によってグルカゴン分泌量が上昇する傾向であった。一方、グルタミン酸はインスリン分泌だけでなく、インスリン抵抗性にも関与することが示唆されている。そこで、インスリン抵抗性改善薬の標的となるPPARγ発現量に及ぼすNMDA受容体の関与を検討したが、ほとんど変化しなかった。本実験において対照として用いたPPARγアゴニストHODEに関して、HODE異性体間でPPARγアゴニスト活性に差異が認められたため論文発表を行った。 以上より、NMDA受容体はインスリン抵抗性には関与せず、血糖値調節ホルモンであるインスリンおよびグルカゴン分泌を調節する機能を有することが示唆された。今後、1. NR2B遮断薬が糖尿病モデル動物の症状を改善させるのか、2. NMDA受容体を介してどのようなタンパク質がリン酸化され、細胞内カルシウムイオン濃度上昇が生じるのか、について詳細に検討し、糖尿病治療標的としてのグルタミン酸受容体の可能性を提示したいと考えている。
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