研究課題/領域番号 |
17K18419
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
金澤 周介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (60783925)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | マイクロ・ナノデバイス / センサー / 印刷 / フレキシブルデバイス |
研究実績の概要 |
完全アディティブプロセスによる中空構造形成技術を確立し、プロセス面では本研究の目標を達成した。開発した技術は仮基板としてシリコーンゴムを用い、その表面に印刷した機能層を半硬化状態にした後に、別の基板へ転写し片持ち梁状の微小構造体を形成するものである。仮基板上で印刷膜の凝集力を高めた後に転写することで、形成された構造を保持したまま別の基板へ転写され、よって片持ち梁や両持ち梁のような中空構造が形成できる。本技術はオフセット印刷の要領で機能層を積み上げていく加工が可能であり、当該技術の特徴から「Lift-On Offset Printing(LOOP)法」と名付けた。このLOOP法の開発により、種々のセンサデバイスの検出部となる中空構造体を極めて効率よく製造することが可能になった。来たるべきトリリオンセンサ社会におけるセンサデバイスの大量生産と消費が実行された際、社会の持続性に大きく寄与する高効率製造技術である。 またLOOP法は高効率なセンサ作製が可能なだけでなく、創出されるセンサの多様性も同時に向上させることが研究過程で見出された。従来のエッチング法を用いた中空構造体作製プロセスにおいては、酸及びアルカリ性の薬液に基板が曝され、さらには高温加熱工程も経由するために、プロセス耐性の高い素材のみが基板として選択されていた。これに対してLOOP法では印刷内に含まれる有機溶剤への耐久性のみが求められるため基板の選択性が飛躍的に向上した。具体的には紙やゴム、スポンジなど、日常生活と親和性の高い素材を基板とした中空構造体の形成が可能となった。この特長を生かし、スポンジ材料の表面に機械変位式の呼吸センサを形成しそれをヘッドマイクの先端に固定した非接触式呼吸センサを試作およびデモした。 以上のように本研究の取り組みから、デバイス製造技術とデバイス機能の両面において大きな進展を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
基礎プロセスの確立に精力的に取り組み、デバイス試作とデモンストレーションができるほどの技術完成度を初年度のうちに得ることができた。これは当初大きな工数を必要とすると予想された材料選定を短時間のうちに完了できたことに起因しており、プロセス基板を支える付着力や凝集力のパラメーターを早い段階で明確化したことで迅速に進行させることができた。基礎技術が確立されたことで、これ以降はプロセスのさらなる高度化と、応用デバイスの試作に注力することができると考えている。これらの成果を元に学会発表4件と論文執筆3件を行い、成果発表についても精力的に行った。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の取り組みによってLOOP法の基礎プロセスは確立された。現在のプロセスは最小線幅50μm、長さ2mmの梁構造を転写できる状態にある。幅に対して長さが40という極めて高いアスペクトの梁構造を形成しており、センサ応用した際に感度の高い検出部として機能することができるものである。今後はまず最小線幅の更新を目指し、一桁ミクロンの超微細梁構造を完全アディティブプロセスで形成できるレベルまで技術を向上させる。これを達することで、生活空間を流れる気流や、人体の脈拍や心拍などのかすかな動きを捉えられる高感度センサ群の製造技術としてLOOP法の有用性をさらに高めることを目指す。 また並行して魅力的なアプリケーション開発にも取り組む。鍵となるのは分布計測技術への応用であると考えている。印刷技術は従来大面積プロセスに優れたものであり、広い面状で熱や湿度、圧力などの情報を取得するアプリケーションは好適であると考えられる。この実現においては広い面内で均一に機能層を形成することが求められる。初年度はある1点のみを計測するセンサの作製をデモンストレーションした。これを多点同時検出へと飛躍させるためには面内均一性をはじめプロセスレベルのさらなる向上が求められる。この高い目標を達成する過程においてLOOP法の技術完成度をさらに向上させ、実用化にy突厥する段階まで押し上げる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度に実施した材料の選定が当初計画よりも短い工数で完了することができた。よってナノ銀粒子などの高価な消耗品や材料委託合成のような高額な役務に充当予定であった予算を残額として次年度に引き継ぐこととなった。 前年度の残額は本研究で確立する技術のデモンストレーション用資材の調達に充当する予定である。研究の遂行状況からシート状のセンサーデバイスを試作し展示会等で示す段階まで進捗を見込める状態であり、その際に必要となる駆動回路や展示用の筐体の調達にあてる。ことでインパクトの高いデモンストレーションを示し、本研究の成果を広く世の中に示す予定である。
|