本研究は有機材料の物理的柔軟性を活かした高感度・機械変位式センサの開発に向けて、カンチレバーのような中空構造体を高効率かつ自在に形成できる技術の開発を目指して行った。この実現のために、印刷技術の応用によってアディティブプロセスで梁構造を形成可能な独自のプロセス、Lift-On Offset Printing(LOOP)法を開発した。LOOP法は仮基板上に印刷した層の形状を保持したまま、他の基板へと部分的な接触のみで完全に転写する技術であり、積層工程のみで片持ち梁(カンチレバー)や両持ち梁(ダイヤフラム)を形成できる。仮基板には剥離性に優れるシリコーンゴムを用いることで、微弱な力での転写が可能となり、半導体プロセスでは困難な形状自由度の高い梁構造の形成が可能となった。 最終年度となった平成30年度にはLOOP法の基本プロセスをさらに改良し、複数の層を一括で転写することで片持ち梁を形成する技術の開発に成功した。これによりひずみゲージ配線を埋設された樹脂カンチレバーや、先端に錘構造を付与されたカンチレバーなど、多彩な構造を用いた可動式センサコアの形成が可能となった。圧力センサおよび加速度センサとしての評価からは、材料の低ヤング率に基く高い感度特性が得られ、有機材料の柔軟性が機械変位式センサの可動部として高い有用性を持つことが示された。また同様の構造体を従来技術である半導体製造プロセスで作製する場合との製造時間を比較したところ、80%もの時間短縮効果が得られることが明らかとなった。中空構造体の製造工程の多さおよびそれに伴う製造時間の長さはIoTの社会実装に伴うセンサデバイスの大量展開に向けた課題の一つである。本研究で確立したLOOP法はその解決策となりえる技術であり、技術の実用化による低環境負荷、省エネルギーなデバイス製造の実現が期待できる。
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