研究課題/領域番号 |
17K18422
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
田中 隆宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30509667)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射計 / X線自由電子レーザー / パルスエネルギー / 絶対測定 |
研究実績の概要 |
本研究では、X線自由電子レーザー(X-ray Free-Electron Laser: XFEL)用のパルス放射計を新たに開発し、XFELのパルスエネルギーの絶対測定を目指している。従来の放射計は、受光部の温度平衡状態を前提としているため、応答の時定数は数十秒程度が限界であった。この応答速度は、XFELの繰り返し周波数(60Hzなど)と比べると遅い。そのため、従来の放射計による測定はXFELのパルスエネルギーではなく、時定数で平均化されたレーザーパワーに限定されている。一方、自己増幅自発放射方式のXFELでは、パルスエネルギーのパルス毎のバラツキは原理的に不可避であるため、平均レーザーパワーではなくパルスエネルギーを直接的に絶対測定することが重要となる。 そこで本研究では、放射計の受光部において温度変化よりも先行して生じる熱の流れ(熱流束)に着目し、熱流束測定に基づく高速応答(ミリ秒オーダーの時定数)のパルス放射計の開発を進めている。初年度である2017年度は、パルス放射計本体の設計および組み立てを実施した。さらに、計画を前倒ししてパルス放射計の計測系を完成させ、パルス放射計の動作の検証実験を開始した。動作検証として、パルス放射計に内蔵したヒータを用いた自己テストを行った。その結果、熱流束信号の安定性ならびにSN比が悪く、現状のパルス放射計では、XFELのパルスエネルギー測定に充分な精度ではないことが明らかとなった。この主因は、外気温の変動によるパルス放射計内部の温度変化(熱流束)であると考えている。そのため、外気温の変化を抑制する機能(真空チャンバーの温度調整機能)の追加などの改良をパルス放射計に施し、精度向上を図る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度である2017年度はパルス放射計の本体の設計ならびに組み立てであった。しかし、当初の計画を前倒ししてパルス放射計の計測系を完成させたことにより動作試験を開始することができた。動作試験の結果、現状のパルス放射計では測定精度に課題があることが明らかとなり、次年度にこの課題に対処する時間を確保することができた。この課題の解決策は、いくつか上がっており、次年度以降に充分対処可能であると考えている。 以上のことから、課題が浮き彫りになったものの次年度前半に対応する時間を確保しており、全体の研究計画にはほとんど影響がなく、現状では、本研究は概ね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(2年度目)は、前年度に明らかになった課題である測定精度の向上に着手する。具体的には、パルス放射計を収納している真空チャンバーに温度制御機能の追加、パルス放射計の受光部から系外への熱流束制御(熱電素子を利用)などを計画している。これらの対応策が完了し次第、パルス放射計の内蔵ヒータによる自己テストを再開する。自己テストによって十分な測定精度が確認された後、XFELによる性能実証を試験へと進む計画である。当初の計画ではXFELによるパルス放射計の性能実証は最終年度(2019年度)に予定しているが、XFELを使った性能実証段階で課題が生じた場合に対応できるように、可能な限り研究計画を前倒しで進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、パルス放射計の部品の設計を全て研究代表者自身で行ったことにより、研究開発費を当初の予定より抑えることができたためである。この次年度使用額は、今年度の研究で明らかになった課題の解決(測定精度の向上)のために使用する予定である。
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