本研究課題では、外部刺激に応答して反応性を制御できる柔軟な光反応系の構築を目的として、外部刺激により異性化する金属錯体触媒の基礎的な研究を展開した。具体的にはルテニウム錯体の光・熱異性化に寄与する構造的要因を合成化学的に解明し、ルテニウム錯体を触媒とした水の酸化触媒活性における外部刺激制御を中心に研究を展開した。 初年度および二年目はルテニウム錯体の光異性化に与える影響を合成化学的に解明することを目的として、一連の非対称二座配位子を有するルテニウムアクア錯体を合成し、光異性化反応および熱異性化反応を評価した。この中で、金属錯体近傍に置換基を導入した錯体では、錯体の配位子場減少により、熱異性化が進行し、光異性化と熱異性化の双方が観測された。 錯体の光異性化と並行して、二年目および三年目では外部刺激応答錯体の水の酸化触媒活性評価を行った。錯体の熱異性化を進行させるために、金属近傍にエトキシ基を導入した錯体を合成した。アクア配位子とエトキシ基が離れたp体と準安定的なd体について双方単離に成功し、単結晶X線構造解析により詳細な同定を行った。得られた錯体の水の酸化触媒活性を評価したところ、d体はp体と4倍程度の触媒回転頻度および触媒回転数を有していた。錯体p体を96%含む水溶液(A)を用いて、触媒活性の外部刺激応答性を検討した。この結果、光照射前は触媒回転数が5-6程度であったが、光刺激によって得られた水溶液(B)の触媒回転数は16程度と向上した。これは光異性化によって触媒活性の高いd体の比率が増加したためである。さらに水溶液(B)に熱を加えると、熱異性化によってd体がp体に戻ったため触媒回転数は再び5程度となった。これらの結果から、錯体分子触媒を用いた水の酸化反応系において、触媒活性を外部刺激(光・熱)によって制御できうることが明らかとなった。
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