研究実績の概要 |
本研究は, 腸管出血性大腸菌に起因する食中毒の理化学的な簡易分析法として, キャピラリー電気泳動法を基盤とする持ち運び可能な分析装置の開発を目指すものであり, 大腸菌株の違いを電気泳動度の違いから判別し, 一斉解析を可能とする技術開発を目的としている。 前年度の研究では, 大腸菌の外膜に存在するアミノ基をターゲットにo-フタルアルデヒド(OPA)とチオール化合物として3-メルカプトプロピオン酸メチル(3-MPAM)を用いた誘導体化法により, キャピラリー電気泳動(CE)上での大腸菌K-12株とB株の分離を検討した。 本年度は, 大腸菌の外膜に存在するアミノ基をターゲットに, 他の誘導体化試薬(FITC, NBD-F等)について検討したが, CE上での分離は確認できなかった。そこで, 大腸菌の誘導体化法としてOPAと3-MPAMを用いる方法に焦点を当て, より詳細な誘導体化の条件検討を行った。蛍光マイクロプレートリーダーを用いた解析では, 微生物のDNAを対象とした一般的な蛍光染色法(DAPI, Hoechst 33258, Syto9等)と比較して高い蛍光強度を示した。グラム陽性菌である枯草菌の誘導体化においても, 同様の結果が得られた。また, 誘導体化した大腸菌をヨウ化プロピジウム(PI)で染色し蛍光顕微鏡で観察した結果, 誘導体化試薬の濃度増大に伴い, 大腸菌細胞膜に損傷を与えることを確認した。この事は, 誘導体化した大腸菌のCE分析において主ピークの他, 望まないピークが検出される原因の一つであると推測した。今後, 各細胞が温和な反応条件下で均一に誘導体化される条件の検討を実施し, CEへの応用を継続して検討する。
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