本研究は悪性中皮腫の原因遺伝子に対して合成致死性遺伝子を探索し、新規治療標的としての可能性を検討する。そこでまず、悪性中皮腫の原因遺伝子に対して、合成致死表現型を示す遺伝子を探索したところ、mRNAエンドヌクレアーゼの一種であるSMG6が、悪性中皮腫の代表的な原因遺伝子の一つであるLATS2と合成致死性を示すことが確認された。LATS2は悪性中皮腫の発症・進展に関わるとさせるHippo伝達系において転写制御因子YAP/TAZの活性化(リン酸化)を調整することで、増殖因子やがん遺伝子の転写制御を行っていることが知られている。そこで、YAP及びTAZが高発現した中皮細胞株に対してSMG6ノックダウンの生存率への影響を解析したところ、TAZの高発現細胞においてSMG6ノックダウンにより生存率の低下が認められ、SMG6はHippo伝達系の中でもLATS2-TAZ経路を介して合成致死性を示すことが明らかになった。また、SMG6はこれまでNMD(nonsense mediated mRNA decay)と呼ばれる本来の位置より上流に終止コドンを持つ異常なmRNAを特異的に分解排除する代謝経路で役割を果たすことが報告されている。LATS2はSMG6以外のNMD関連因子とは合成致死性を示さず、このことからSMG6が合成致死性を示す上で、NMD以外のRNA分解機構が重要である可能性が示された。SMG6は活性中心付近の結晶構造が既に示されていることから、in silicoスクリーニング法による阻害剤候補化合物の探索を行ったところ、数種の候補化合物を得ることが出来た。今後これらの物質に対して細胞処理濃度・時間を検討してくことで、有用な阻害剤を探索し、悪性中皮腫の新規治療薬となるか検証する。
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