研究課題/領域番号 |
17K18437
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
津川 陽司 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老化制御研究部, 研究員 (90763269)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / アルギニン / インスリン / アルギニン結合因子 / 内分泌 / β細胞 / A/PBP |
研究実績の概要 |
2型糖尿病は、生活習慣が誘因となり肝臓、骨格筋などの組織におけるインスリン感受性が低下し、それに伴い膵臓ランゲルハンス島b細胞(膵ラ島b細胞)のインスリン分泌量の増加、その長期化によって負担を強いられた膵ラ島b細胞が減少し、インスリン分泌量が不足することで発症する。現在までの2型糖尿病に対する治療薬は、それらb細胞内でインスリンを貯蓄する小胞の細胞膜への融合を促し、インスリン分泌を促進させることによるが、b細胞におけるインスリン分泌機構の全貌は未だ不明である。一方で、最近の研究成果により、準必須アミノ酸であるアルギニンが膵ラ島b細胞のインスリン分泌を促すとともに、膵ラ島b細胞内に取り込まれたアルギニンと結合する因子が、b細胞のインスリン分泌を制御することを発見した。このアルギニン結合因子として同定されたのがA/PBP (Arginine/Proinsulin-Binding Protein)、bCGF、そして糖代謝関連因子Xを同定した。A/PBPについては、膵ラ島b細胞特異的にA/PBPが過剰発現するトランスジェニックマウス(A/PBP Tgマウス)を作製したところ、野生型マウスと比較して膵島サイズや膵ラ島b細胞の大きさは変化がなく、b細胞のインスリン分泌能が有意に低下していた。さらに、A/PBPのアルギニン結合ドメインに遺伝子変異のある数名の糖尿病患者においてアルギニン負荷試験を執り行ったところ、アルギニン応答性インスリン分泌が抑制された。一方、糖代謝関連因子Xについては、日本人のXの一遺伝子性糖尿病患者のスクリーニングを行った後、糖代謝関連因子X遺伝子の特定のグルタミン酸残基が変異した患者に対するアルギニン負荷試験を行ったところ、アルギニン不耐性の高血糖および低インスリン血症が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の予定していた計画と並行して新規候補因子の機能同定に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
糖代謝関連因子X変異体はアルギニン結合能を欠損していることが認められたが、まだ詳細な機能はよくわかっていない。糖代謝関連因子Xが糖尿病病態において膵ラ島b細胞内のアルギニンを介したインスリン分泌機構にいかに寄与するのか、そして、生体内でどのような分子と相互作用をして機能発揮するのかを明らかにする。 これまでに、グルコースにリン酸を修飾する糖代謝関連因子X酵素活性の促進剤がインスリン分泌を亢進することが報告されている。本研究において、アルギニンが酵素活性に対してどのように寄与するのか検討する。次に、インフォマティクスの手法を用いて、糖代謝関連因子Xのアルギニン標的ドメインを予測し、それを基に作成したドメイン変異体を膵b細胞株に発現させ、そのアルギニン応答性インスリン分泌能を測定することでアルギニン結合活性ドメインを明らかにする。また、この予測にはすでに明らかとなっているA/PBPのアルギニン結合モチーフをもとにモデリングを行う。選出した結合部位の欠損ベクターを作製し、これらをb細胞株に遺伝子導入し、膵b細胞におけるアルギニンの結合・シグナル活性化ドメインを探る。 また、これまでに、糖代謝関連因子X遺伝子の特定領域はユビキチン相互作用ドメインを保有していることが明らかとなっているため、アルギニン結合領域の欠損しているアルギニンのユビキチン-プロテアソーム経路およびオートファジーへの影響を検討する。
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