電気絶縁材料の設計では、対象物の電気的破壊のほか、機械的破壊についても考慮する必要がある。近年では急激に高まっている絶縁能力の高性能化への要求に応えるべく、材料の複合化や多層化が進んで構造が複雑になってきており、従来では想定しない破壊の進展が見られるようになった。そこで、電気的破壊と機械的構造ならびに欠陥との関係について調査し、破壊を抑制するのに効率的な材料構造を検討するため、次の研究を実施した。 平成29年度は、機械強度に異方性をもつ材料を3Dプリンタで作製し、方向ごとの電気絶縁性を絶縁破壊試験によって評価した。また材料の自由体積の観点から、上記電気絶縁材料に対して、材料内の空隙形状が変形すると推定される大きさの外力を与えている状態での、電気絶縁性を評価した。そして、平成29年度から30年度にかけては電気トリーが存在する樹脂試料のX線CT画像を撮影し、トリー形状を取得した。また、平成30年度はバルク樹脂材料に対して、電流積分計による計測を実施し、等価回路モデルを提案・作成することで、材料への電荷注入過程全体を通して蓄積もしくは貫通するエネルギーの評価方法を検討した。 以上の取り組みから次の成果が得られた。(a)電気絶縁材料の層構造や異方性と、空隙近傍に作用する力とが絶縁性に及ぼす影響についての知見が得られた。(b)エポキシとポリエチレンとに生じた電気トリーを三次元トリー形状としてモデル化することにより、電気絶縁材料設計に際して電界解析等に活用可能な3Dモデルを作成できた。(c)電気絶縁材料が劣化した時の電荷情報およびエネルギーを算出するための基礎モデルを作成した。以上の成果は、電気絶縁性の性能向上、電界集中部近傍の破壊推定、電流積分計による新たなトリー進展診断手法の開発につながるものと考えられる。
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