研究課題/領域番号 |
17K18442
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
池田 忠広 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (50508455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 篠山層群 / 化石 / 遊離骨 / カエル類 |
研究実績の概要 |
本年度は現生種を対象とした骨学的研究を中心に進め、その成果をもとに篠山層群産カエル類遊離骨化石の分類学的帰属を検討した。 遊離骨において、分類に有用な形質を特定するために、現生種の同一種内における個体、雌雄間の変異について検討した。検討した種はトノサマガエルで、本年度は有類骨化石として比較的多産する部位、上腕骨、橈尺骨、脛腓骨、大腿骨、仙椎、尾骨、腸骨について、同種の63標本(雌46、雄16、不明1)を対象に、63項目について計測(幅や長さ、曲率など)し、57項目の比率、曲率をもとめ、個体・雌雄間の変異について定量的に示した。結果、全体、雌雄における各項目の中央値、各パーセンタイルが示され変異の幅が明らかになり、雌雄間で比較した場合、それぞれにわずかな傾向が認められた。しかしながら、変異幅の下限・上限に違いはあるが中央値や25-75パーセンタイルにおいて明瞭に違いが認められず、いずれかの幅に内包されるため、雌雄間に有意な形態的差異はないと判断された。また、分類形質としての記載が目立つ、各condyleの形状、間接面や横突起がなす角度には、一定の変異がみられるため同形質として記載する場合には注意が必要である。 上記の結果、またHyogobatrachusとTambabatrachusの各遊離骨の3Dモデリングデータをもとに、両分類群の違いを改めて検討すると、計測値は前述した種内の変異幅を超える値を示すことから、両化石種は改めて明らかに異なる分類群であることが示唆された。またこれらのデータをもとに、保存状態の良い遊離骨化石94標本について、その帰属を検討したところ、5割が前者、4割が後者、残り1割が不明とされた。また不明とされた腸骨化石の一つは、シャフト部の湾曲程度が両種と異なることから、未記載種に帰属する可能性も示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、現生種を対象に各骨要素の個体・雌雄間、種内、種間における変異や差異を検討し、化石の分類に有用な形質を特定し、その成果と既知化石種のCTデータをもとに、個々の遊離骨化石の分類学的帰属、また篠山層群産カエル類相の種多様性を検討することを目的としている。 これまでの研究により、現生種・種内(トノサマガエル)における形態的変異については、各遊離骨の表形形質の観察及び計測により、その変異幅が明らかになっており、雌雄間において、形態的特徴の有意な差異は認められていない。一方、分類形質として挙げられている幾つかについては、同一種内で変異が確認されており、その有用性については疑問が呈される。このように現段階では、現生種を対象とする研究の内、単一種を対象とする研究についてはある一定の成果をあげられている。一方、一部検討されているものの、他種間や高次分類群間の比較、先行研究で記載されている形質の分類指標としての有用性等については十分に検討出来ていない。 化石標本については、全体で約1200を超える資料が確認されており、その内約半分の資料の剖出、その一部が完了している。処置が終了した資料に関し、保存状況が良い資料を選別し、その分類学的位置が検討されており、多くは既知種に帰属される。一方、不明とされる資料の一つが既知種とは異なる形質を示していることから未記載種の可能性が示唆されている。これらについては当初計画のとおり、ある一定の資料に関し、その帰属が確認されており、同層群カエル類相の種多様性について新知見が得られている。しかしながら、対象とした資料数は全体の一部であり、未記載種と想定される資料の新分類群としての記載や、同相の構成の詳細を明らかにするためには、さらに資料を検討することが望ましい。 これら上記の研究成果、研究計画と照らし合わせると、全体的にはやや遅れが生じていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗状況の項に記した通り、現生種を対象とする研究の内、他種間や高次分類群間の比較、先行研究で記載されている形質の分類指標としての有用性等については十分に検討出来ていない。前記を念頭に、来年度では、主に国内に分布する種を対象に、同一種内の形態的変異の検討と同様の方法で、各遊離骨の各項目を数値化し、種や属間、また高次分類群間の相違点、また傾向について検討する。これら、現生種のデータ収集の元となる資料(写真等)に関しては、その多くに関しこれまでの研究過程で入手しているが、不足が生じた場合、必要に応じて各研究機関に赴き検討する予定である。これらの結果から、先行研究(国内種:Nokariya[1983], 世界種:Frost et al. [2006],化石種:Gao and Wang [2001]など)で示されている分類形質に関し、その有用性について改めて検討する。 化石を対照した研究に関しては、HyogobatrachusとTambabatrachusの3Dモデルから、先行研究では記述されていない同分類群の新たな標徴や、各遊離骨の特徴や相違点が明らかになっている。現生種及び化石既知種の研究結果をもとに、遊離骨化石の帰属を検討すると、その多くは既知種とされるものの、一部未記載種が含まれている可能性が示唆されている。次年度では、既知種の3Dモデリングを進め、新たな骨要素に関し、その形態的特徴を明らかにするとともに、検討対象となる遊離骨化石の骨要素、またその数を増やし、分類学的帰属を検討し、改めて、篠山層群産カエル類化石の種多様性・群衆構成を明らかにする。併せて、これまでの研究成果を国内外の学会等で発表し、論文等での公表に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当該年度には、米国で開催予定の国際学会(80th Annual Meeting, The Society of Vertebrate Paleontology)で研究成果を発表するために、研究概要を投稿し発表の許可を得ていたが、新型コロナウィルスの蔓延により、学会がWebでの開催となり、当初予定していた当該旅費が執行されなかった。また、同様の理由で国内外他機関への出張も見送られ、これらの旅費についても執行が滞った。
使用計画:本年度においても、コロナウィルスの感染拡大は収まらず、特に国外への調査は難しい状況であり、各学会も既にWebでの開催を表明している。したがって、それらの旅費としての執行は難しく、国内の移動が許される場合、必要に応じて調査に赴き、その旅費として一部執行する予定である。また、骨格標本の作製や化石の剖出については、ある一定の進捗が見られるがさらなる資料入手や整理が望まれるため、専門技能を有す人材を雇用する予定である。その他、解析用のソフトウェアやデータ収集用の各ツール、文具等消耗品の購入、また論文等の校閲費等で本予算を執行する予定である。
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