研究活動を通して,疾患の臨床経過は多様性に富んでいて一概に把握するのは困難なままであり,臨床経過を正しく示したグラフ表現モデルには高い臨床的な需要があると考えている.このモデルが開発及び活用されれば,臨床の現場にて治療・ケア戦略の立案や原因論的研究の一助となり,医療経済学における疾患モデルの構築にも役立つはずである. 平成29年度は,ランダムフォレストという機械学習手法にて,弱い学習モデルを縮約する際の理解性欠如を克服するため,複数樹木モデルを単一樹木モデルへと縮小する方法論を構築した.平成30年度は,アンサンブル学習手法を用いて治療群とコントロール群のエンドポイントを互いに予測し,それらから算出した個人ごとの平均因果効果について分類し,治療効果の高いサブグループを探索する統計学的手法の研究を行った.令和元年度は,平均因果効果の層別推定量の推定において,層内での残差交絡を可視化し減少させるための層別手法を考案した.令和2年度は,関心のある因子に対して実質的な治療効果を持つサブクラスを見つけるための手法の検出力が低いことに着目し,任意統計モデルの下で,予測効果が高いサブクラスを見つけるための十分な検出力を持つ統計的仮説検定手法を提案した。 研究期間全体を通じて,臨床的な兆候・症候が次のアウトカムの予測に使えることは一般に知られておらずデータ整備ができておらず,重要な予後に対するアウトカムを予測するモデルも十分に活用されていな現状が把握できた.一方で,グラフ表現モデルの構築には,上記の因果と予測に関する研究成果を踏まえ,兆候・症状とその順序に関する(ハッセ図のような)潜在的表現モデルを作成しておき,その各ノードで状態の存在確率とノード間の遷移する確率を推定し,ノードと遷移の必要性を判断する必要があると考えられた.
|