これまでの研究で、専門性の強化を希求したPCGの非軍事化のプロセスにおいて、非軍事のPCGになじむ過程において、組織の構成員としての経験年数がそれほど大きな影響力を持っていないという結果となったが、果たしてそのように断じてよいのだろうか? 本年度の研究では、上記のような疑問から、PCG職員が非軍事のコーストガード職員として社会化していく上で、何が重要な要素となっているのかを明らかにすることを目指した。 具体的には、特に海上での経験やスキルへの自己満足度、勤続年数の組織社会化における重要性、そして、その因果の流れは軍人出身者と非軍人出身者とでは異なるのか否かも分析した。さらには、日本のドネーションによって建造された数多くの巡視船がこのプロセスに寄与しているのかも検討することとした。 その結果、軍出身であると否とをとわず、単に勤続年数が長いだけでは、個々の職員の社会化には結び付きにくいことが示された。他方、勤続年数が伸びるにつれて、現場や海に関する知識と技術に満足を感じるようになると、そのことが組織社会化に結び付いていた。他方、このプロセス、特に知識や経験に対する満足度の向上に、日本のドネーションによる船に乗った経験が寄与しているかについては、軍経験のあるグループにのみ統計的優位にその影響が認められた。 本プロジェクトの大きな目標であった、軍から警察組織が分離独立したとき、組織とともに変化することを求められた軍人たちはどのように警察組織の職員としての専門性を得、あるいはアイデンティティを確立していくのかについては、学習を伴う経験の蓄積の重要性が示唆されたこととなる。また、本研究結果は社会化に関する研究にも一定の意義がある。それは、職業人の組織社会化を分析するにあたって、tenureという変数だけで組織における経験を観察することが変数無視のバイアスを招きうるということである。
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