研究課題/領域番号 |
17K18452
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大湾 秀雄 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60433702)
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研究分担者 |
大西 宏一郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (60446581)
細坪 護挙 文部科学省科学技術・学術政策研究所, 第1調査研究グループ, 上席研究官 (40415625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-28 – 2020-03-31
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キーワード | 産業組織論 / イノベーション研究 / 科学技術政策 |
研究実績の概要 |
経済学分野の科研費データベース、SCOPUS論文データベース、日本経済学会発表記録を整理結合したデータセットを用いて、科研費交付がその後5年間の論文生産性(論文数、引用数)に与えた影響を計測した。具体的には、審査評点データを用いて、わずかな評点の違いが採択の成否につながった研究者同士を比較することで、因果関係を特定する回帰不連続デザインを用いた。結果をまとめると、(1)科研費の交付は論文数を17-21%、引用数を23-37%増加させる、(2)費用対効果で見ると、生産性押上効果は、若手研究・スタートアップが基盤研究Bの4倍、基盤研究Cの1.6倍ある、(3)有意な生産性押上効果は理論研究では認められない、(4)地方に比べて、首都圏・京阪神圏の大学の研究者に与える影響が2倍大きい、(5)正教授にとっての効果は、それ以外のランクの研究者に比べて小さい。ただし、大型予算の研究代表者ほど、あるいは正教授ほど、代替的な財源を持つ傾向があるため、効果が過少に推定されている可能性がある。また、地方大学の研究者ほど旅費が余分にかかることや、共同研究相手の発掘が容易ではない点などには注意が必要である。結果の解釈は慎重に行う必要があるものの、これらの結果は、科研費の配分において、効果に応じた予算配分を行うことによって、国全体の研究生産性が改善できる可能性を示唆している。また、本研究では、二次審査の審査員が、過去の研究実績や科研費獲得実績に影響を受ける傾向が強いことも併せて示しており、研究キャリアの初期に発生した差がその後も強化される可能性を示している。二次審査で順位の入れ替えがないグループの方が、科研費の効果が高くなる傾向も確認しており、近年の科研費審査プロセスの変更が効率性に寄与したことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、統計数理研究所に寄託されたWorld of Science DBから論文情報を抽出する計画であったが、同研究所の方針変更により利用が認められず、大阪経済大学が契約するScopus DBを使った契約社員による手作業での論文情報のダウンロードとなり数か月分析開始が遅れた。また、研究代表者と分担者1名が、当該年度に、同時に他大学へ移籍したために、移籍前後の準備や研究室立ち上げで数か月作業が滞ったことも大きく影響を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
審査における評価者のバイアスを理解するため、審査員と応募者の専門分野の近さ、所属機関や共同研究関係などの関係性の近さ、などの距離指標と審査評点の関係を分析する。既に暫定的な結果では、本人の能力指標をある程度コントロールしても、距離と審査評点の間には高い相関があることを確認している。今後は、この相関が嗜好や利己的行動によるものなのか、より詳細な情報によるものなのかを区別する工夫を行うと同時に、距離指標を操作変数として、科研費の生産性押上効果を特定する推計も行う。年度中に、海外で同様な研究を行っている研究者を集め、国際コンファレンスを開催し、研究からの知見を共有する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、統計数理研究所に寄託されたWorld of Science DBから論文情報を抽出する計画であったが、同研究所の方針変更により利用が認められず、大阪経済大学が契約するScopus DBを使った契約社員による手作業での論文情報のダウンロードとなり数か月分析開始が遅れた。また、大湾・大西両名が今年度同時に早稲田大学への移籍が決まり、移籍前後の準備や研究室立ち上げで数か月作業が滞ったため、研究が遅れた。
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