研究課題/領域番号 |
17K18457
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大河内 直之 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (30361679)
|
研究分担者 |
布川 清彦 東京国際大学, 人間社会学部, 准教授 (90376658)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 視覚障害 / 音声ガイド / 聴覚障害 / 字幕 / ユーザニーズ / 映像メディア / バリアフリー映画 / アクセシビリティ |
研究実績の概要 |
初年度は、バリアフリー映画における視覚障害者並びに聴覚障害者の、最新のニーズを把握することから研究をスタートした。 バリアフリー映画は、視覚障害者向けの音声ガイドと聴覚障害者向けの字幕を映画本編に付与することで実現されているが、ここ数年それら音声ガイド・字幕の提供方法や製作環境が大きく変化してきている。したがって、ユーザのニーズを正確に把握するためには、バリアフリー映画を取り巻く最新の動向を把握する必要があり、まずはバリアフリー映画制作の現場やバリアフリー映画上映会等において、関係者からの聞き取りを行い、情報収集を行った。また、日本語のみならず、外国語の音声ガイドや字幕製作の現状を把握するため、日本で製作されたバリアフリー映画の外国語化作業の現場並びに外国語によるバリアフリー上映会等においても併せて情報収集を行った。 これらの最新動向を踏まえて、バリアフリー映画におけるユーザニーズの抽出を行うための、調査用上映素材の製作を行った。上映素材については、これまでユーザが一度も鑑賞したことのない素材を製作する必要がある。そのため、まだバリアフリー化されていない映画の一部を使い、音声ガイドと字幕を新たに製作し同映画に付与することとした。音声ガイド評価用として3クリップ、字幕評価用として3クリップの、計6クリップの調査用素材を製作した。 製作した調査用クリップに基づき、視覚障害者及び聴覚障害者向けの調査項目の作成を行った。また、比較対象として、健常者にバリアフリー映画を評価してもらうための調査項目を併せて作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、すでにリリースされている既存のバリアフリー映画を素材とし、視覚障害並びに聴覚障害の当事者ユーザに対して、ニーズ調査を実施することとしていた。しかしながら、今日のバリアフリー映画を取り巻く状況を鑑みると、さまざまな方式による製作並びに上映が実施されており、また鑑賞するユーザのニーズも多様化していることから、現状の把握と情報収集を十分に行う必要があると判断した。したがって、まずは各バリアフリー映画の製作現場や上映会等において、関係者からの聞き取りやディスカッションを通じて、バリアフリー映画の最新動向を把握することに注力した。 その結果、スマートフォンを利用した音声ガイド提示やメガネ型端末を利用した字幕提示等、新たな鑑賞方法が登場することにより、既存のバリアフリー映画の鑑賞方法との差異の中で、ユーザにも新たな課題やニーズが発生していることがわかった。また、日ごろからバリアフリー映画の評価等に携わるユーザにとっては、音声ガイドや字幕製作にモニターとして参画している作品も多く、既存のバリアフリー映画を調査素材とした場合、客観的な評価ができない可能性が高いこともわかってきた。 そのため、今年度は既存のバリアフリー映画を使用したニーズ調査を行わず、現状ユーザがバリアフリー映画を鑑賞する際に直面している最新のニーズを踏まえた調査項目の作成と、調査用にまだバリアフリー化されていない映画を使った音声ガイドと字幕の製作を行うこととした。 上記の理由により、研究目的の達成度を「(3)やや遅れている」とした。今年度、ニーズ調査の実施には至らなかったが、バリアフリー映画の現状とユーザの最新のニーズを踏まえた調査項目の策定と、調査に特化した音声ガイドや字幕を製作することができたことから、次年度の調査では、より客観的なニーズ抽出とバリアフリー映画の評価方法を確立することができると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2年次は、初年度で策定した評価項目と、調査用に製作した音声ガイドと字幕を付与したバリアフリー映画の素材を使用して、ユーザに対するニーズ調査を実施する。 具体的には、視覚障害者に対する音声ガイドの評価・聴覚障害者に対する字幕の評価を軸に、健常者に対しても、音声ガイドと字幕の評価を実施し、それら評価の比較検討を行う。また、視覚障害者と聴覚障害者が、同じ場面を同時に鑑賞する中で、音声ガイドや字幕により、どこまで場面を共有できているか否かについても検証する。さらに、視覚と聴覚の両方に障害を併せ持つ盲ろう者や日本語未学習の外国人に対して、日本語の音声ガイドや字幕を付与することで、映画の理解がどのくらい促進されるか否かについても調査を実施する。 こうした調査に基づき、バリアフリー映画における視覚障害者・聴覚障害者・盲ろう者・外国人のニーズを抽出し、同時に適切な音声ガイド・字幕の製作及び付与の方法についての評価システムのモデルを策定する。また、評価システムを音声ガイド並びに字幕製作の現場にフィードバックし、同システムを今後のバリアフリー映画製作に反映させていく。同時に、評価システムを踏まえて製作された映画を、再度ユーザにフィードバックするための上映会を実施し、評価システムの問題点の修正や新たな問題点の抽出を行う。これらを繰り返すアクションリサーチを通じて、評価システムのブラッシュアップを図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 「現在までの達成度」の欄にも記載したとおり、今日のバリアフリー映画を取り巻く状況の変化やユーザの新たなニーズや課題の発生を考慮し、研究計画の見直しを行った。その結果、初年度で着手予定であったユーザに対するニーズ調査を実施せず、バリアフリー映画の現状把握と情報収集並びに調査用の素材として音声ガイド及び字幕製作に時間と研究費用を要したため、次年度使用額が生じることとなった。 次年度使用額の使用計画 研究の2年次は、初年度に実施できなかった、視覚障害者・聴覚障害者・盲ろう者・外国人ユーザへのニーズ調査を実施する。そのための調査費用(謝金や旅費など)を一部、次年度使用額から支出する。
|