研究課題/領域番号 |
17K18468
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
橋本 裕之 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 都市研究プラザ特別研究員 (70208461)
|
研究分担者 |
中川 眞 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特任教授 (40135637)
政岡 伸洋 東北学院大学, 文学部, 教授 (60352085)
日高 真吾 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (40270772)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 被災地芸能 / 二次創作 / 記憶の風化 / 芸術文化協働 / 東日本大震災 / 城山虎舞 / 関西 / 移植 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、壊滅的な打撃を受けた地域社会の復興に際して、芸能のもつ特筆すべき力をフィールドワークによって実証した上で、その効果を持続させて震災に関する記憶の風化に抗する芸術文化協働のモデルとして、被災地芸能の二次創作という方法を検討することにある。芸能が東日本大震災直後の被災者を繋ぐ媒体として大きな役割を果たしたのは周知の通りである。芸能のもつ力が再認識されたといってもいいだろう。だが、被災から8年以上が経ち、関西は遠隔地ということもあって、震災を肌身で感じることもなくなってきた。したがって、関西の人々に東北の芸能を継承していただき、自ら上演することによって、震災の記憶の風化に立ち向かえるのではないかと考えている。実際は岩手県上閉伊郡大槌町で活動している城山虎舞に触発された阪神虎舞をたちあげることによって、被災地芸能の二次創作に関して情報集約とデータ分析を行なっている段階である。 研究計画についていえば、平成30年度は城山虎舞のメンバーを招聘してワークショップを実施する一方、数名の受講者を大槌まつりに派遣して現地の雰囲気を体感してもらった上で、関西に在住するコンテンポラリーダンサーを中心とする阪神虎舞の活動を開始した。これは既に試行的なプロジェクトに着手していた虎舞の二次創作に関する中心的な実践研究として位置づけられる。そして、城山虎舞にも協力していただき、虎舞を関西に移植するための具体的な計画を策定しながら、その過程に関する参与観察的な調査を実施した。また、平成30年度も平成29年度に続いて、城山虎舞を含めて被災地芸能のもつ歴史的側面と民俗的側面をとりあげた現地調査を各地で実施した。なお、メンバーによる研究会を6月と11月と3月に大阪で実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は本格的な実践研究の段階に入っている。6月に虎舞ワークショップ「チャレンジ虎舞!」を開催した上で、9月に数名の受講者を大槌まつりに派遣して城山虎舞に関する参与観察的な現地調査を実施した。そして、虎舞の二次創作を試行的に実施する手がかりとして、関西在住のコンテンポラリーダンサーを中心とする阪神虎舞の活動を開始することができた。実際は11月に城山虎舞の神戸公演「舞い虎参上、岩手大槌より」を開催したさい、その前座として阪神虎舞の初舞台が実現している。その反響は大きく、1月にニューウェイヴガールズグループの大阪公演に参加する一方、3月に少彦名神社の東北文化復興祈念祭―城山虎舞に導かれた阪神虎舞―において虎舞を奉納した。 いずれの機会においても被災地芸能の二次創作に関して協力していただける城山虎舞のメンバーのみならず、実践的な性格を持つ本研究を応援していただける関係者とも打ち合わせを重ねながら、具体的な活動を推進する過程に関する参与観察的な調査を実施した。また、平成30年度も平成29年度に続いて、被災地芸能の現地調査を各地で実施することによって、被災地芸能の二次創作に関する積極的な意義と現実的な課題を確認することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究実績を踏まえて、既に試行的なプロジェクトに着手していた虎舞の二次創作に向けて虎舞上演の企画・運営に当事者や関係者と共に関わり、その過程に関する参与観察的な調査のみならず、その結果に関するインパクト評価なども実施することによって、記憶の風化に抗する効果などを検証する。虎舞の二次創作に焦点をあてた芸能の役割を実証する作業を経て、今後の段階についていえば、震災の記憶の風化に抗する芸術文化協働のモデル構築について明示的で実効性の高い計画を提示して、その試行的実施と評価というPDCAサイクルのなかで、芸能の二次創作に関する方法論を確立する。東北における伝統的な文化の継承に深刻な変容を与えることに十分な注意をはらいつつも、関西において新しい災害文化を創造するための具体的な方策を検討する。研究成果としては芸能の二次創作に関する先進的なモデルを提示することをめざしている。一方、東日本大震災以降に芸能がコミュニティ復興に果たした役割をとりあげた記録・資料等は今後も公表される可能性が高いので、引き続き集約する作業を実施したい。なお、メンバーによる研究会を2回開催する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成30年度は本格的な実践研究の段階に入っている。当初の計画を順調に遂行しており、ほぼ予定していたとおり支出している。だが、支出額が当初の計画よりも若干下回っている。最終年度である令和元年度は関西において虎舞のワークショップを実施した上で、城山虎舞が演じられる大槌まつりに合わせてワークショップの参加者を現地に派遣する一方、いくつか予定している公演の機会を通して虎舞の二次創作を定着させることをめざしている。また、こうした過程に関する参与観察的な調査を実施することを予定しており、旅費・人件費・謝金等の支出額が増大すると考えられるため、次年度使用額を確保するべく当初計画していた内訳を変更した。 (使用計画) 令和元年度は6月に虎舞のワークショップを実施して、虎舞の二次創作に関わる参加者を確定した上で現地に派遣するのみならず、当事者や関係者が試行錯誤する過程に関する参与観察的な調査をも実施する。また、本研究を遂行する際は、被災地芸能の二次創作に関する積極的な意義と現実的な課題を検討することが必要不可欠であるため、被災地芸能の現地調査も各地において継続する。一方、東日本大震災以降に芸能がコミュニティ復興に果たした役割をとりあげた記録・資料等は今後も公表される可能性が高いので、引き続き集約する作業を実施したい。次年度使用額はこうした活動のいずれかに充当したいと考えている。
|