研究課題
感染症拡大のため事業期間を延長した最終年度にあたり、これまで実施できなかった博覧会と文化財、在外日本美術展示について調査するとともに、ウィリアム・アンダーソン『日本の絵画芸術』(“The Pictorial Arts of Japan”,1886)と『大英博物館所蔵日本中国絵画目録』(“Descriptive and Historical Catalogue of a Collection of Japanese and Chinese Paintings in the British Museum”,1886)刊行の経緯を確認した。アンダーソンの研究に駐日イギリス外交官アーネスト・サトウの協力があった点はこれまでも指摘されていたが、サトウの手紙を翻訳した結果、その貢献は予想以上に大きかったことが判明した。彼は日本美術のモチーフを説明するための資料の大部分を集めることを引き受け、協力を約束したことを後悔しながら膨大な和書を解読し、共著での出版を断念した後も協力を続けていた。初の官製日本美術史概説書としてパリ万博用に編纂された『日本美術史』(“Histoire de l'art du Japon”,1900)および『稿本日本帝国美術略史』(1901)第1編は国体論に始まり、単一民族神話にもとづく〈日本美術史〉を説き起こした。それは、あらゆる点で世界の周縁に位置していた日本帝国が中心である欧米各国に近づき、対等な関係を求めるために必要な自画像であったが、現在の一国史としての〈日本美術史〉は、まだこの神話から脱却していない。多民族国家の意識に欠けた記述や国際的な評価を重視する傾向は変わっておらず、今後は〈日本美術史〉の脱中心化を進める必要がある。研究成果の一部は小田原のどか・山本浩貴編著『この国〔近代日本〕の芸術』(2023年9月刊行予定)出版に向けたオンライン講座で発表した。
加藤弘子, 富澤ケイ愛理子「日本美術史の脱中心化:アイヌ、沖縄」『この国〔近代日本〕の芸術』第1回オンライン連続講義, 2023年8月10日
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