本研究では日本の屏風絵について、従来の研究では着目されることが殆どなかった、「紙の規格」という観点からその表現・技法についての考察を行った。国内外の中・近世屏風絵作品約500点についての本紙の情報を含むデータベースを作成し、従来の美術史研究の手法では踏み込めなかった問題や包括的研究における新機軸を打ち出すことを目的とする。絵に何が、どのように描かれているかはもちろん重要なテーマであるが、どのような本紙の上に描かれているのか、という着眼点は従来の研究では看過されることが多かった。しかしながら、本紙はその作品の真正性、制作当初の姿を伝える可能性の高い重要な基底材料と言える。長い時間を経過した古美術作品の、現在見えている表面には、修理や保存のため、また作品鑑賞上の改変等によって、制作当初からのちの時代に加えられたものが少なからず存在している。制作されてから全く何も手を加えられることがなく現存している古美術作品は存在しない、と言っても過言ではない。さらに本研究では屏風の用紙の大きさと紙継ぎの方法、紙の材料(雁皮・竹・楮など)、また修理の際に得られる情報などを収集した。素材としての情報を蓄積・整理・分析した上で、狩野派・土佐派・琳派などの流派による屏風絵作品を横断的に、紙の規格という観点から概観し、絵画としての表現と技法についての問題を考察した。 大きな傾向として、屏風には竹紙と雁皮紙が用いられていることが多く、水墨画や中国の画題は竹紙に、やまと絵や金地着彩の作品は雁皮紙に描かれることが多い。また中世には1枚の紙の大きさが比較的小さく、高さ150cm程度の屏風の1扇(1パネル)を縦5段ほどで貼り継いだ作品が多いが、時代が下るにつれて、1扇を1枚の紙の紙で貼るような、大きな紙を用いた作品が現れてくる。製紙技術や流通の発展と、表現技術の多様性が連鎖していることを明らかにした。
|