研究課題
今年度は初年度であるので、まず、既に消滅に瀕している(看取り段階にある)言語の使用についてパイロット的調査を行うことにした。11月末~12月初めの極短期間ではあったが、ロシア国クラスノヤルスク地方北部のタイムル県ドゥジンカ市内にて、ドルガン語、ネネツ語、エネツ語、ガナサン語話者等に、各言語の使用状況や次世代への言語継承の難しさについて調査を行った。ソビエト政権下でも、サモエード系のエネツ語、ガナサン語については、既に看取りの段階にあったとも言え、ソビエト連邦崩壊後も依然として話者数は低いままである。一方、チュルク系の言語であるドルガン語の話者の減少は連邦崩壊後のおよそ四半世紀の間に著しい。帝政ロシア時代には比較的産業上も行政上も関係の深かったサハ(ヤクート)語圏とともに、ソビエト政権時代も言語保持率が8割を越えていたドルガン語であるが、ソビエト政権崩壊後の今日、言語保持の状況は衰退の一途であった。今回の調査で、特に伝統産業であるトナカイ飼育の産業形態崩壊による生活様式の変化と集落からの、特に若い世代の人口移動が、筆者の予想以上に言語保持に影響を及ぼしていることが分かった。この調査結果については、ユーラシア言語研究コンソーシアム2017年度年次総会(2018年3月29日、京都)で、「ロシア極北タイムル州の先住民族言語使用状況レポート」として発表した。また、代表者が主に研究対象としているロシア語圏に分布するチュルク系言語の他にスペイン語圏に分布する少数派言語のバスク語や中国語圏に分布する蒙古系小言語についての研究協力者の発表を含め、少数派言語の使用状況について検討する機会を持った。
3: やや遅れている
今年度は初年度で、研究開始時期がやや通常の科研課題と比べて遅れたことを年度後半にカバーするまでに届かなかったため。言語の看取りについて、パイロット的な調査は行えたものの、研究報告を文書にまとめるまでは届かなかったため。
研究課題の2年目となる2018年度は、引き続き、危機言語の使用状況の調査を進めると同時に、人を看取る、あるいは、看取られる場面での使用言語のあり方についても、視野を広げていきたい。そのため、あらたに研究分担者に英文学者を加え、アジア文化圏と西洋文化圏での看取りの場面での言語行動のあり方を整理していきたい。適宜、看護学分野の研究者にも助言を受けるなど、言語の看取りとともに看取りの言語のあり方についても観察と考察を深めていく。
言語調査期間が学内業務の都合で短縮せざるを得ず、調査費に残金が生じた。次年度は、分担者も加えて、より対象地域での調査を充実させるために使用し、さらに、冬期には、危機言語話者を招聘し、集中的に言語使用調査も含めて情報収集にあたりたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Contribution to the Studies of Eurasian Languages
巻: 20 ページ: 95-103
Essays in the History of Languages and Linguistics, (eds.) M.Nemeth, B. Podolak, M. Urban, Krakow, Poland,
巻: 0 ページ: 203-217
doi:12797/9788376388618.11
http://el.kobe-ccn.ac.jp/csel/