本研究は、1960年代以後の日系社会の転換期における日系英語文学と日本語文学とを比較検討し、日系アメリカ文学の多様性や異質性などを検証するものである。最終年度にあたる本年度は昨年、収集した資料や文献を踏まえて以下の研究を進めた。まず、8月にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校リサーチ・ライブラリーで主として、日系新聞でマイクロフィルム化されたものを調査し、1980年代以後の日系アメリカ人やコミュニティの変化を探った。さらに、1月にハワイで開催された国際学会への出席やハワイ大学マヌア校ハミルトン・ライブラリーでの資料調査などを通してハワイにおける日系アメリカ文学の状況についても新たな知見を得ることができた。このような作業を進める一方で、本年度は主として1980年度以後の日系日本語アメリカ文学と日系英語アメリカ文学の作品をテーマ別に分類しながら比較検討を行った。取り上げた主要な作家は日系英語文学においてはジョン・オカダ、ヒサエ・ヤマモトらの二世作家やシンシア・カドハタやカレン・テイ・ヤマシタなどの三世作家である。日本語文学については山城正雄やあべよしおらの帰米二世作家を中心に分析・考察した。 また、近年の日系日本語文学の動向を探るべく『平成』や『新植林』などの文芸誌や日系新聞に掲載された短編や短歌、俳句なども分析を行った。これらの成果の一部として論文「日系アメリカの変容とヒサエ・ヤマモト」(『共立国際研究』)および『ヒサエ・ヤマモトの世界』(金星堂)を発表した。
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