研究課題/領域番号 |
17K18497
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研究機関 | 藍野大学 |
研究代表者 |
野田 亨 藍野大学, 医療保健学部, 研究員 (50156204)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 身体語彙 / 解剖学 / 大和言葉 / 日本古典文学 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画では、平成29年度に引き続き、身体全体、四肢の骨格、頭頸部などに分類した身体の大まかな部位別に、倭名類聚鈔、古事記、日本書紀等の基本的文献から身体用語の採集し、研究を進める計画であった。研究の初年度には比較的語彙収集が進んでいた下肢について解剖学会で発表したが、本年度には、それらに関連すると考えられる方言についての検討を加えた内容をコ・メディカル形態機能学会において発表した。さらに、下肢に続いて、上肢についても研究を進め、その研究成果を平成30年度解剖学会で発表した。令和1年度は、続いて、頭頸部の大和言葉表現の収集に進んでいるが、特に頭部には重要な感覚器が多く、表現も多数に存在するため、身体表現古語の採集や発表には時間がかかると予想される。 また本研究は解剖学と古典文学に関連する内容であり、研究発表は全て和文で行なっていた。これまで参加した文学に関連する学会でも、ほとんど和文による研究発表が中心の小規模の学会であったが、最近、一部の研究会などでは、外国人研究者による日本の古典や日本文化に関する研究発表も見受けられるようになった。また海外での日本文化の研究者も増えてきているような状況を鑑み、本研究も積極的に欧文による研究発表をすべきであると感じていた。幸い、2019年8月に第19回国際解剖学会 (The 19th Congress of the International Federation of Associations of anatomists) がロンドンで開催されることを知り、これまでの研究成果をまとめ、発表することにした。このような日本の学術的研究成果を国際学会で発表することは意義深いものと考える。なお、今回の発表は2019年8月9日で、抄録はJournal of Anatomyに掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでのところ、基本的な参考資料として、古事記、日本書紀、万葉集、和名類聚抄などから大和言葉の身体語彙を収集し、検討しているが、それらの資料に書かれていない身体語彙も多く、それらは平安時代以降の文字資料も研究対象となり、その対象文献は膨大である。しかし、研究期間には制限があるので、ある程度の研究期間に区切って、内容をまとめていかざるを得ないが、現在のところ要領よくまとめきれておらず、時間がかかっている。下肢、上肢に続き、今後の研究は頭頸部の大和言葉表現の収集に進んでいるが、特に頭部には重要な感覚器が多く、表現も多数に存在するため、身体語彙の採集、およびまとめにやや時間がかかっている。 本研究は解剖学と日本古典文学などに表れた身体表現に関する文字資料の比較検討であるが、こうした研究は分野横断的な性格を持ち、これまで参加してきた医学系、および文系学会、研究会などを見た限り、本研究のような研究成果の発表の場として適当と判断される学会は非常に限られるように思われた。特に文系学会などでの発表にはかなりの制限を感じている。 研究実績の概要でも述べたが、近年、外国人研究者による日本語、あるいは日本文化研究はますます盛んになってきている。本研究についても、その学問上の意義は高いと考えられるので、欧文で海外に成果を発信してゆくべきであると考えている。こうした研究成果を海外に向かって発信するためには、外国人研究者が手に入れることのできる基礎資料、あるいは参考文献として研究を進める必要があるので、日本古典文学や文字資料の英訳図書を用いる必要がある。参考とすべき日本古典文献である万葉集、古事記、日本書紀については幸い、英訳本が存在するものの、実際、個々の身体語彙の訳文を確認してみると、時として誤訳があるため、それらの翻訳や解釈に関する説明に大いなる労力と時間を必要としている。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度においては、下肢、上肢に続き、研究は頭頸部の大和言葉表現の収集に進んでいるが、特に頭部には重要な感覚器が多く、表現も多数に存在するため、身体表現古語の採集や発表にはやや時間がかかると予想される。さらに進んで、内臓における身体語彙の収集が最後に控えている。 本研究は、日本独自の大和言葉による身体語彙の収集と保護であり、その学問上の意義は高いと考えられるので、積極的な海外への発信は重要であると考えている。本年、初めて海外での研究発表に挑戦するが、この機会を捉えて、発表内容に基づき、欧文による論文を完成させ、投稿までこぎつけたいと考えている。現代の解剖学用語が、中国漢方や西洋医学に影響を受け、その便宜的優位性により、現代まで使われていることは、ある意味、賢明で実用的な手段であることは否めないが、日本には大和言葉による独自の表現が存在していたし、今も一部は存在する。それらには古代からの日本人の身体観が反映していると思われるので、それらを今、和文や欧文で発表し、保存してゆく意義は高いと考えている。 本年度は最終年度であるので、研究期間の中で、この研究に一区切りつけることができるよう、精力的に研究とその成果のまとめを進めてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記に述べたように、令和1年度には、当初想定していなかった海外出張(英国、ロンドンにおける第19回国際解剖学会における研究発表)を予定していることから、その発表への対応として、参考文献となる主要な日本古典資料の英訳図書を揃える必要があり、また国際学会への渡航費も高額になるため、令和1年度に相当額の研究費を繰り越す必要が生じた。
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