研究課題/領域番号 |
17K18501
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
横山 詔一 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変化研究領域, 教授 (60182713)
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研究分担者 |
野崎 浩成 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (80275148)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 言語変化 / 敬語 / 経年調査 / 疫学的統計手法 |
研究実績の概要 |
敬語は,日本語の現状と言語生活の実態を把握するうえで,絶えず目配りをすべき言語現象である。国語施策や国語教育施策の立案のほか日本語教育においても敬語は重要な課題であり,科学的調査研究にもとづいた情報・知見が求められている。敬語は時代とともに常に変化していくため,日本語の将来像を的確に見通すには敬語の変化を予測する研究が不可欠である。この研究は広い学問分野の英知を結集して挑戦すべき最先端の学術的課題であり,社会的必要性も高い。 国立国語研究所は,愛知県岡崎市で1953年から2008年までの55年間に3回にわたって,敬語規範意識と敬語使用に関する大規模データをランダム抽出法によって収集した(以下,岡崎敬語調査という)。岡崎敬語調査データは,敬語規範意識の数値データと敬語使用のテキストデータに区分できる。岡崎敬語調査データはすでにデータベース化され,国立国語研究所のサイトから一般公開されている。 この公開データを疫学的統計手法の代表格であるロジスティック回帰分析で解析し,敬語規範意識に影響を与える要因を同定するとともに,経年変化の数値予測をおこなった。また,同一人物を追跡したデータ(パネルデータ)の解析手法についても検討した。岡崎敬語調査データはパネルデータの数が少ないため,パネルデータの解析手法の有用性を評価することができない。そこで,国立国語研究所が山形県鶴岡市で1950年から2011年までの61年間に4回にわたって調査した共通語化に関する大規模データ(以下,鶴岡共通語化調査という)の一部を用いてパネルデータの解析手法に関する有用性の評価をおこなった。さらに,敬語変化予測モデルと共通語化予測モデルの共通点について,実データを用いた吟味を試みた。 なお,ケース・コントロール法を敬語変化研究に導入するための方法論を詳細に検討した結果,現時点では実現可能性が低いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計量国語学会の学会誌『計量国語学』に岡崎敬語調査データをロジスティック回帰分析で解析した成果を投稿し,査読を経て採択が決定した。また,社会言語科学会から刊行される研究書に本研究の成果が掲載されることになった(現在,印刷中)。 また,(1)日本語学会2017年度秋季大会シンポジウム「ルールを逸脱した表現の産出と許容」,(2)大学共同利用機関法人の人間文化研究機構(国立国語研究所,国立民族学博物館)と情報・システム研究機構(統計数理研究所)による機構間連携・文理融合プロジェクト「言語における系統・変異・多様性とその数理」シンポジウム,(3)第32回人間文化研究機構シンポジウム「人文知による情報と知の体系化~異分野融合で何をつくるか~」(情報・システム研究機構との合同シンポジウム)で招待発表などをおこなった。 さらに,敬語変化予測モデルと共通語化予測モデルの共通点を検討するため,鶴岡共通語化調査データのうち未公開部分の一部について整備し,分析の準備を進めた。 以上のことから,ほぼ順調に成果が得られていると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
岡崎敬語調査は,ランダム抽出された話者への調査だけではなく,以前に調査を受けた話者を追跡して再調査するという点で世界的にもきわめてユニークである。これはコホート系列法(cohort sequential method)と呼ばれる調査手法の典型例で,トレンド調査とパネル調査を組み合わせた形になっている。 このような方法の長所と短所を綿密に検討し,言語研究の幅広い分野に貢献する新たな方法論(データ解析法を含む)の創出を目指す。先にも述べたように,鶴岡共通語化調査のデザインは岡崎敬語調査と同じコホート系列法である。そこで,2011年に実施された第4回鶴岡共通語化調査のデータを追加して,敬語変化予測モデルと共通語化予測モデルの統一を目指した数理モデル構築を試みる。 また,敬語規範意識の経年変化を予測するための探索的研究に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
統計解析ソフトウェアを購入する予定であったが,大きなバージョンアップがあったため,ソフトウェアの動作に問題がないかの情報収集をおこなうとともに,研究補助者が簡便に使用できるかなどを確認するため,購入を次年度に回して慎重に検討した。その結果を踏まえて,今年度は統計解析ソフトウェアを購入する。 また,研究成果を国内外の関連する学会・研究集会で発表する予定であったが,科研費が交付された時点で発表申込が終了している学会・研究集会が多くあり,その分の旅費を次年度に繰り越した。 今年度は,繰り越した予算の一部を使用して「敬語に関する意識調査」を実施するための検討と準備を進める。現時点で想定している調査方法は,住民基本台帳等に基づくランダム抽出法による全国規模の面接調査を調査会社に委託してデータを収集する,というものである。
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