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2018 年度 実施状況報告書

青銅器の特異な磁性を解読する研究方法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 17K18509
研究機関富山大学

研究代表者

酒井 英男  富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 名誉教授 (30134993)

研究分担者 小田 寛貴  名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
長柄 毅一  富山大学, 芸術文化学部, 教授 (60443420)
清水 康二  奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 指導研究員 (90250381)
菅頭 明日香  青山学院大学, 文学部, 准教授 (90554072)
研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2020-03-31
キーワード青銅製遺物 / 鋳造銭貨 / 鋳型 / 残留磁化 / 帯磁率 / 地磁気
研究実績の概要

青銅資料の磁化研究は従来行われていなかったが,基礎研究で微弱な残留磁化の存在がわかり,年代や製造状況などを探る磁性研究法の開発を進めた.
(1)昨年度1破片を扱った静岡県袋井市出土の梵鐘(平治二年銘)では,新たに入手した複数破片の磁化は全て安定であった.復元した鋳造時の磁化を過去の地磁気(伏角)と比較すると,銘の年代より若い年代と対応し,本鐘が当初の鐘に銅を加えて再鋳造された時期を示唆する重要な結果が得られた.ただ,破片を梵鐘元位置に復元する誤差の更なる検討が必要であり,また,加熱可能な試料の地磁気強度(テリエ法実験)による年代検証と14C年代(共同研究者・小田)の研究が可能か検討している.
(2)下関市立大(櫻木先生)が古銭と同様の工程で鋳造された銭貨と鋳型を研究した.
鋳型(数10cmブロック)は,TOTで固めて非破壊の帯磁率測定後,細分試料(2cm立方)を測定した.残留磁化は形成時の(堆積)残留磁化を良く残していたが,湯通し部(銭貨と接する領域)の熱残留磁化は曖昧だった.実際の古銭でも,鋳型については,焼成域(高温の被熱範囲)は限られたと考えられ,鋳型の磁化から古銭鋳造を研究する際の貴重な情報が得られた.鋳造銭の帯磁率異方性では,銭貨面に平行で重力方向(湯通し方向)に最小軸が現れた.枝銭(鋳幹)でも同様であったので,銭の帯磁率異方性は,平らな形状の影響ではなく,湯が固まる際に生じたものであり,帯磁率異方性から銭貨の鋳造時の湯の流れが研究できるとわかった.昨年度実施の青銅板の実験試料での結果と合わせて,帯磁率異方性が青銅製品の有用な研究法になるとわかった.
古銭の磁化研究では,蛍光X線分析(研究協力者:伊藤氏)と併用して偽銭の判別に利用できる可能性も判明した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年度研究した袋井市の梵鐘(破片)では,市の協力で新たに複数個の試料を扱うことができ,青銅の安定な磁化の確認と,磁化研究の有意性が確証された.ただ破片を梵鐘の元の位置に復元する際の精度が重要で,精度を高める工夫が実用での課題となってきた.対象の梵鐘は銘の年代と真の形成時期とのずれの検証が歴史学でも重要とされており,その解明では,今回開発する磁化研究が唯一の方法となる.同様に青銅製品として銅鐸(可児市)の研究でも,年代・製法の不明な部分の研究に役立つ磁化データが得られた.
また,橿原考古学研究所(研究分担者の清水所属)が中国社会科学院考古研究所と開始した共同研究の一環として,山東省出土の貴重な青銅鏡関連資料の研究を行うことになり,昨年度末入手の鏡面笵資料を試料として磁化研究を進めている.鋳造時の状況(被熱も含めて)の復元と共に,地磁気による年代推定も可能になると考えられる.
銭貨の研究として,古銭(寛永通寳等)と併せて,本年度は実験鋳造の銭貨も研究できたことは大きな意義があり,銭貨の磁化研究の有用性と期待される未知の情報もわかった.機器整備で遅れた課題もあったが,磁化を用いる青銅製品の新規研究法の開発は順調に進んだ.帯磁率等での反磁性と残留磁化(強磁性)を持つ特異な磁気物性の青銅の研究法の信頼性と有用性を高めることができた.磁化以外の研究として,金属分析(長柄)や14C年代の研究(小田)も進んでいる.
以上から,研究はおおむね順調に進展していると考える.

今後の研究の推進方策

青銅の磁化の基礎実験と考古試料の研究を進めて磁化研究の有用性を高める.基礎実験では,銭貨も含む鋳造試料の,構成物分量と周囲磁場の条件による磁化特性の変化を検討し,また磁化が磁場強度の記録になるかをテリエ法の研究で求める.青銅の反磁性(常磁性)と極微量の磁性粒子による強磁性の共存という特異な磁性の,物性物理の研究成果をまとめる.
青銅製品では,袋井市の梵鐘の銘の課題(再鋳造の可能性)を,磁化方向の精度良い復元と地磁気強度,14C年代で検証する.可児市の銅鐸,神奈川県と北海道出土の古銭に関する,磁化及び各種分析の結果を合わせて,製造法と流通の検討成果もまとめる.青銅製品の製法の研究では,帯磁率異方性が青銅湯の流れの記録となることがわかり活用できる.研究分担者による青銅の金属分析,緑青の14C年代と磁化研究の対比も重点的に行う.
中国社会科学院考古研究所との山東省・青銅鏡関連資料の研究では,まず鏡面笵資料の磁化による鋳造状況(被熱も含む)の復元,地磁気年代の推定,考古学,鋳造学の研究を合わせて結果をまとめる.
本研究で得られた成果を,学会での発表と学会誌論文として公表する.

次年度使用額が生じた理由

今年度の古銭と鋳造銭の研究では,磁化研究に蛍光X線分析の結果を合わせて検討する研究が有用とわかった.特に偽銭判定の効率的な方法となる可能性が出てきた.蛍光X線分析は,研究分担者も行えるが,機器の関係で研究協力者による測定も必要となり,その為の費用を次年度に見込むことにした.研究分担者が次年度に長期の調査出張を行う為に残した予算もある.
鋳型試料の磁化研究では,数cm立方の個別試料を切り分ける際に崩れないよう試料の固化操作が必要となる.また青銅製品と鋳型の試料を既存の磁力計で測定する際に,試料の精度良い固定が形成時の磁化の復元で重要となる,その為の特殊器具も新たに作ることになった.以上の磁化測定の為の費用も次年度予算として繰り込んだ.

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] 三角縁神獣鏡における製作技術の一側面-二層式鋳型と型押し技法の検証2019

    • 著者名/発表者名
      清水康二,宇野隆志,清水克朗,菅谷文則
    • 雑誌名

      古代学研究(古代学研究会)

      巻: 220 ページ: 1,11

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 古代青銅鏡の鏡面から取得した金属組織画像による非破壊定量分析2018

    • 著者名/発表者名
      長柄毅一,廣川守,奥山誠義他
    • 雑誌名

      銅と銅合金(日本銅学会)

      巻: 57 ページ: 30,36

    • 査読あり
  • [雑誌論文] レ-ザ積層造形により作製したCu-Sn系合金造形体の金属組織と機械的特性に及ぼす熱処理の影響2018

    • 著者名/発表者名
      山本貴文,湯田稜也,長柄毅一
    • 雑誌名

      銅と銅合金(日本銅学会)

      巻: 57 ページ: 137,147

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 三角縁神獣鏡製作技術把握への小考-挽型共有説の検証-2018

    • 著者名/発表者名
      清水康二,宇野隆志
    • 雑誌名

      橿原考古学研究所論集(八木書店)

      巻: 17 ページ: 216,224

  • [雑誌論文] 青銅の磁化研究の試み2018

    • 著者名/発表者名
      酒井英男,菅頭明日香,長柄毅一
    • 雑誌名

      日本情報考古学会講演論文集

      巻: 21 ページ: 49,52

  • [雑誌論文] 考古地磁気年代推定法を用いた最近の研究動向2018

    • 著者名/発表者名
      菅頭明日香,酒井英男
    • 雑誌名

      考古学ジャーナル(ニューサイエンス社)

      巻: 709 ページ: 24,26

  • [雑誌論文] 特別天然記念物である古代の魚津埋没林の探査と掘削による新たな発見2018

    • 著者名/発表者名
      酒井英男,泉吉紀,卜部厚志,石須秀知,打越山詩子,麻柄一志
    • 雑誌名

      情報考古学

      巻: 23 ページ: 23,29

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 沖縄県南城市サキタリ洞遺跡の焼土遺構の磁化研究2018

    • 著者名/発表者名
      酒井英男,菅頭明日香
    • 雑誌名

      サキタリ洞遺跡発掘調査報告書(沖縄県立博物館)

      巻: 1 ページ: 213,219

  • [学会発表] 青銅器の乾式試料調製法にみられる外来炭素汚染の評価2019

    • 著者名/発表者名
      小田寛貴,山田哲也,塚本敏夫,加藤丈典
    • 学会等名
      第31回名大年代測定研究シンポジウム
  • [学会発表] 青銅の磁化研究2018

    • 著者名/発表者名
      酒井英男,菅頭明日香,長柄毅一
    • 学会等名
      日本情報考古学会第41回大会
  • [学会発表] 静岡県富士宮市大鹿窪遺跡における地球電磁気学的研究2018

    • 著者名/発表者名
      菅頭明日香,酒井英男,永田悠記
    • 学会等名
      日本情報考古学会第41回大会
  • [学会発表] 青銅器の緑青を試料とした14C年代測定の可能性2018

    • 著者名/発表者名
      小田寛貴,山田哲也,塚本敏夫
    • 学会等名
      研究会:ミュ-オンによる非破壊分析の可能性-考古学文化財への応用を考える-

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公開日: 2019-12-27  

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