日本に水田稲作が導入された当初の弥生時代前期から古墳時代における水田でのイネの実収量を推定するために不可欠な、水田における実際の湛水状態の変遷を明らかにするために次の研究を実施した。 ① 4水準の湛水条件(常時湛水、栄養成長期のみ湛水、生殖成長期のみ湛水、常時非湛水)と2水準の土壌(弥生前期水田土壌と現代の水田土壌)で栽培した、弥生時代前期に渡来したと推定される出穂に関する遺伝的背景を持つイネの穂の3次元形状をSPring-8(兵庫県佐用郡佐用町)においてX線CT法により測定した。そして、3Dレンダリングにより灌漑水の不足による穂の形態変化とその程度の解析をすすめた。② ①で作成した植物試料と栽培土壌の元素組成(CdとAs)を京都大学複合原子力科学研究所(大阪府泉南郡熊取町)においてICP-MSにより測定し、湛水・土壌条件と元素組成との関係から湛水状態の解析をすすめた。同時に、放射化分析による元素組成(CdとAs)の非破壊分析法を検討した。③弥生時代前期水田(秋津遺跡・中西遺跡)の微地形(高低差など)や水利施設の配置と、先行研究で得られた水田群での湛水状態の水田間変動との関係を地図化し、弥生時代前期における水田群における潜在的な湛水状態を推定し、その成果を公表した。④ 福岡、鳥取、徳島、奈良、群馬、山形県などで検出された弥生時代から古墳時代の出土米ブロックのX線CT計測を行い、①で確立された手法を用い各地で生育した水田の湛水状態の解析をすすめた。
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