研究課題/領域番号 |
17K18514
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
南 博史 京都外国語大学, 外国語学部, 教授 (00124321)
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研究分担者 |
木村 暁 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (00625113)
堀川 徹 京都外国語大学, 国際言語平和研究所, PAX MUNDI 特別研究員 (60108967)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 世界遺産と博物館都市 / 博物館学 / 土製建造物保存修復 / コミュニティ・エンゲージメン / 文化財ガバナンス |
研究実績の概要 |
この研究の目的は、総合政策科学の実践理論として博物館学を応用し、ウズベキスタンの世界遺産ヒヴァの国立博物館保護区において、コミュニティ・エンゲージメントにもとづく文化財ガバナンスの構築を試みることにある。1.建造物や収蔵品に対して都市内居住民が果たし得る学芸員的役割 2.持続可能な博物館都市のための政策と課題に取り組む仕組み「博物館活動を通した住民主体の地域活性化モデル」の構築、3.日本ならではの現地との堅固な信頼関係に基づく草の根的援助の基盤整備、を研究目標とした。 現地調査は、予定通り8月(南、堀川徹、木村暁)と2月(南、木村、松井敏也)に実施した。2017年2月に博物館保護区建物内の3か所に設置していた環境測定装置のデータを回収。2月にはそれをもとに連携研究者松井(保存修復)は、設置場所と設定時間などの指示を行った。また、保護区内の収蔵品の環境調査のため設置していた環境測定装置のデータを同様に回収。設置場所についてより必要な場所への設置を依頼した。 一方、「博物館活動を通した住民主体の地域活性化モデル」に向けた地域住民調査については、海外共同研究員ダヴレトフ館長が8月に退任されたため一時保留することにした。そして、2月の調査時にあらためて館長代行となった海外共同研究員フダイベルガノフ研究員と協議した。その結果、予定通り研究を進めることを確認し、実施できなかったアンケート調査については、フダイベルガノフ館長代行が2018年8月の調査までに事前に実施することになった。 情報収集・文献調査(堀川、木村)は、フダイベルガノフ館長代行の協力の下、コミュニティ、行政機関などから研究に必要な各種統計などの収集を行っている。しかし、ダヴレトフ館長が退任にともない、調査遂行のため調査環境の整備、政府・行政機関などとの新たな関係づくりを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回、研究の柱の一つである「博物館活動を通した住民主体の地域活性化モデル」の構築は、持続可能な博物館都市のための政策と課題に取り組む仕組みである。これに向けた具体的なプログラムになる「住民主体の博物館活動プログラム(試案)」作りに向けての調査が、館長交代というやむを得ない状況により開始できなかった。これにともない成果の発表も計画通り実施できなかった。したがって、全体の進捗状況をやや遅れているとした。しかし、館長代行のフダイベルガノフ研究員は予定通りこの研究を進めることに賛同しており、来期の研究に向けて準備を進めたい。 一方、土製建造物、レンガ造り建造物に関する調査は順調である。建造物の中の展示ケースの中に2か所、10世紀に創建され1789年に再建されたジュマ・モスクの中庭(木柱が約200本並ぶ)に1か所に設置した環境測定装置では1時間おきに温度・湿度を計測している。あわせて施設の受付や監視の役割を担う係員が、1時間おきにデータを記録していた。館からの指示であるが、プロジェクトが目指す住民の関わり方の一つとして、住民の学芸員的役割の可能性をあらためて感じた。 また、2月には松井を中心に南・木村による城壁の劣化状況に関する実見調査を実施した。おもに日干しレンガ造りの城壁で進む劣化の状況を確認した。とくに一部に水分によるものではないかと推定される壁の膨張が確認された。こうした建造部の劣化については、一定のモニタリングが必要という見解を得た。また、こうした水がどこから導かれているのかも今後の調査の方向になるのではないかという指摘をえた。 文献資料の収集については、館長代行フダイベルガノフ研究員の協力の下、コミュニティ、行政機関などから研究に必要な各種統計などの収集が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
建造物や収蔵品に対して都市内居住民が果たし得る学芸員的役割についての研究は、アンケート調査を実施し、プロジェクト全体への理解を広げるとともに、「住民主体の博物館活動プログラム」づくりを進める。これは、「文化財保存・活用ができる人材育成」、持続可能な博物館都市のための政策と課題に取り組む仕組み「博物館活動を通した住民主体の地域活性化モデル」の構築につながるものである。そのためには現地研究協力者であるフダイベルガノフ館長代行と連携し、8月の調査までにアンケートを作成し事前に配布する。8月ではこれらを回収し分析を進め、住民の意見を反映したおおまかな案を作りたいと考えている。また、実践事例として、ヒヴァの観光産業に直接結びついているおみやげ物の製造、販売について職人さんのグループを対象とした調査を進めたい。このために平行して観光客へのおみやげ物に関するアンケート調査を実施したい。 今年度の調査で指摘された建造物の劣化に関する調査・研究は、緊急性がある課題と考えている。2月の調査成果を海外共同研究員フダイベルガノフ館長代行に報告し、モニタリング体制の整備と原因追及に向けた調査、建造物保存・活用のための計画を作りたい。ただし、これは中長期の調査が必要になるので、本研究ではあくまで計画にとどめ、あらためての研究を提案したい。 また、城壁にみられた水の痕跡をもとに、イチャンカラとアム河との関係を歴史的に遡った研究が必要であると考えている。このためには刊行されているイチャンカラの考古学や建築学の調査成果を洗い出す必要がある。来年度はこの基礎的調査を開始し、次の研究に備えたい。 以上のような総合政策科学としての博物館学調査が、日本ならではの現地との堅固な信頼関係に基づく草の根的援助の基盤整備に結びつくだろう。また今後、国際文化資料館展示活動、HPまたSNSを利用し広く情報を公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が発生した理由は、以下の2点である。 一つは、研究代表者の海外旅費を使用するについて、他の研究費との効果的な執行を行ったため旅費が予算以下の執行になった。また、二つ目としては、イチャンンカラ国立博物館保護区館長が交代したことによって、いくつか予定していた研究を一時保留したことによる。その関係で予定していた研究分担者および連携研究者の現地調査を実施しなかったからである。 一方、南と木村による2月の現地調査によって、館長代行のもと予定通りの調査を進めることになったため、次年度に海外旅費に予算を執行することにしたい。具体的な使用計画としては、8月と2月の現地調査にともなって研究分担者、連携研究者の海外旅費に充当する。また、現地での展示室内などの環境測定について、よりこまめに観測する必要があるという松井連携研究者からのアドバイスを受け、現地調査の回数を増やすことも考慮している。
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