研究課題
昨年度に引き続き、日本海側で収集した複数の年輪サンプルの測定を進め、データの再現性を十分に確認したうえで、それらのデータを統合して過去500年におよぶ酸素同位体比の標準年輪曲線を構築した。気象観測データとの比較から、収集した年輪酸素同位体比は、主に梅雨期の水環境(相対湿度や降水量)を反映していることが分かった。なお、豪雪地帯に生育する樹木から取得したサンプルであったものの、年輪データには冬期の降雪情報は含まれていなかった。この年輪の酸素同位体比データを、同じく夏季の水環境を反映している屋久島の酸素同位体比データと比較したところ、PDO(太平洋十年規模振動)指数が負(正)の時に両者の相関が上昇(下降)する特徴が認められた。このことから、日本各地の水環境の空間分布や、その帰結としての米収量を規定する要因としてPDOが重要であることが示唆された。他方、近世の米収量を全国各地で復元するための調査については、今年度は特に静岡県域の年貢割付状の撮影を実施した。加えて、撮影済みの静岡県・滋賀県・和歌山県の年貢割付状からの数値データの収集と分析を通じて、各地域の米収量の推移を見積もった。気候変動と米収量の統計学的な比較に加え、収量から実際の年貢率への換算や、関連する古文書の解読を通じて、農業気象学的な知見だけでなく徴税(年貢)を取り巻く領主や村人との社会的な繋がりに関わる論点も重要であることを見いだした。今後は、本研究で収集したデータの分析を深めながら成果を出版するとともに、まだ未着手の地域の年貢割付状の分析を精力的に実施し、これまでの研究期間で得られた年貢割付状と合わせることで、近世日本の米収量や年貢率に及ぼす気候変動の影響について全国規模で解明していきたい。
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Dendrochronologia
巻: 57 ページ: 125626
10.1016/j.dendro.2019.125626