本研究は、紛争、開発、自然災害により消滅した有形文化財(以下文化財)・建造物を3次元画像として再現することである。紛争や自然災害は、多くの重要な文化財や建造物の破壊を招き、また昭和の高度経済成長期の宅地開発や社会インフラ整備は、多くの遺跡を消滅させた。これら対して本研究は、2点に焦点を当て実施した。 第1点はISに爆破されたシリア・パルミラ遺跡ベル神殿の3次元画像をもとに二次元写真を合成することにより爆破前の神殿を再現することであり、第2点は宅地開発等の開発行為で消え去った古墳群・古墳を過去の写真の合成により3次元的再現を行うことである。第1点のベル神殿の3次元画像の再現は、シリア古物博物館総局の職員により撮影された爆破後の神殿のデジタル画像の提供を受け、基壇部と幸い残存した門をより鮮明にすることができた。 第2点の過去の写真を活用しての古墳群・古墳の3次元画像の再現は、2018年度に1940年代後半に米軍によって撮影された空中写真を利用し、住宅開発で消滅した奈良県御所市石光山古墳群、同市西松本古墳群、さらに長年の耕作地利用と学校建設によって墳丘の姿を変えていった明日香村小山田古墳において行った。その結果、石光山古墳群や西松本古墳群では、一基一基の古墳の位置を明確に確認でき、明日香村小山田古墳では、学校建設によって外観的にはほとんど消滅した古墳の墳丘を学校建設前の1948年の姿に三次元的に甦らせることができた。その中で2019年度は、石光山古墳群と小山田古墳の周辺地域を含めた現在の姿を航空レーザー計測を行い、赤色立体地図を作成した。 本研究において過去の画像を現代的に活用し3次元化した結果、消失する前の古墳・古墳群とその周辺地形の新たな姿を再現することができた。今後、古墳群や古墳の歴史的立地環境を考える上で絶好の材料を提供することができ、新たな研究への窓口を開くいたと考えている。
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