研究課題/領域番号 |
17K18521
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
石黒 勝己 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 特別研究員 (60766377)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 大和の考古学 / 古墳 / 探査 / ミューオンラジオグラフィー / 宇宙線 / 古墳時代 / 3次元計測 / 放射線 |
研究実績の概要 |
方針として、まずは1カ所からのミューオン測定結果に加えて石室の床に傾斜が無いなどの条件を仮定することで埋葬施設の3次元画像化を行う研究をした。その後、複数点からの生データを使うことで仮定を減らして3次元画像の作成を行うという計画を立てて研究を進めた。 先ず古墳のミューオンラジオグラフィーをシミュレーション出来るプログラムを作成した。あらゆる古墳の等高線図を読み取って実行可能であるように設計した。次に春日古墳に原子核乾板を設置して取得したデータの解釈を上記のプログラムを用いて行った。まず春日古墳の墳形(外形)測量結果から3次元モデルを作成した。さらにそのモデルに対して直方体形で水平な床をもつという仮定のもといろいろな方向、大きさの空洞を作成し、計算機上でミューオンを照射した。どのようなデータが得られるかという結果を予測し、それを実際のデータと比べて最も良く一致しているものを選ぶ。結果としてほぼ南北方向に長さ6.1±0.5m,高さ2.0m,幅1.8mの空洞を見積もった。 さらに複数点からの観測データを用いることで床の水平性などの仮定条件を課さずに3次元構造を決定する手法の開発を進めた。行列計算によって古墳の各点の密度が求まることをまずは代数学的に確かめた。さらに測量して作った古墳モデルを用いて計算を行っている。観測は3カ所で100日間程度行う必要がある見込みである。一方で原子核乾板を高温で長期間放置すると黒化し、次第に解析不能になる問題がある。対策としてフィルムの温度上昇を防ぐために非電化で乾板設置箱内の温度を自動的に冷却するシステムを考案しテストした。さらにフィルムのパッキング材の変更や原子核乾板製造時の添加薬品に変更を加えた。これらの要素を組み合わせて春日古墳及び桜井市の古墳で複数点からの観測をした。現像した原子核乾板には黒化していないことを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画していたシミュレーションプログラムの作成に関しては、等高線画像が作られていればどんな古墳でも用いられるような汎用性の高いシミュレーションプログラムを作成して春日古墳の3次元解析に用いることが出来た。検出器の設置場所を自由に変更できるため実験計画を立てる際に古墳のどこに検出器を置くのが効果的かの吟味に使う事もでき、新たな古墳で実施する際にも有用である。 3次元解析に関しては、埋葬施設の形状を単純化、パターン化することによって少ないデータからでも立体解析を行うことが出来た。これは古墳のミューオンラジオグラフィーに特化する事で可能になった。 計画していた検出器の温度対策に関しては、化学的に箱内を冷却することにし、溶解熱が低い尿素等を定期的に箱内に置いた水槽に投下することで最高気温を低下させる方法を実験室でテストした。水槽に一部を浸したフィルムパックの温度を16度から、直後に4度まで低下させ、60分後でも6度に温度を保てていることを確かめた。さらに治具及び箱の改善、パッキング材の改善を行うことで原子核乾板の黒化を防いで夏季の観測を行うことが出来た。核乾板製造時の添加薬品を最適化することもした。 計画した実際の古墳での実施に関しては、春日古墳および桜井市の古墳において複数箇所からデータを取ることが出来た。そのために必要な原子核乾板を製造するために乳剤塗布装置3台を橿原考古学研究所に建造し、高速で検出器を生産できるようになった。また原子核乾板の現像施設も立ち上げ、回収した原子核乾板をすぐに現像できるようになった。これによって古墳以外から来たミューオンが検出器輸送時に混入する割合を減らすことが出来る。新たなアイディアを生かして3次元解析などを計画以上に進めることが出来たので十分な成果を上げることが出来たと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに春日古墳の内部空洞を検出しその方向、幅、高さの中心値を求めることが出来た。しかしエラーの評価が出来ていないためその評価を行う。これはシミュレーションにより作成する予想値とデータを細かく比べることによって行える。まずは人間が見て比べることによってどの予想画像までがデータと似ているかを決めることでエラーの値を決める。将来的にはより定量的、自動的にエラー値が決められるように尤度関数などの指標を用いてこれを行えるようにする。 それを可能にするためにもシミュレーションをより高速に行えるようにする。現在はある空洞を仮定した場合に1日以上の時間をかけて計算を行っているためエラーを評価するためには1か月程度の時間を要してしまう。しかし本来は省略できる計算が多いため必要な部分の計算のみに限定することで高速化できる見込みが有る。また計算機を改善する事も検討する。 エラーを評価できればデータをより考古学的に生かしていく事が出来るようになる。例えば空洞の大きさがどの形式の石室に近いのかといった判断を定量的にできる。春日古墳においては墳丘に比較的大きな石が露出しておりこれが検出した埋葬施設を構成している可能性がある。空洞の方向のエラーを評価して、想定する空洞がこの石につながると言えるのかも評価したい。 これらの研究の為に画像化の精度を上げたい。これまでは空洞の形状をパターン化し床が水平であるなどの仮定のもとに解析を行ってきたが観測点を増やしデータ量を増すことで仮定を減らすことが出来、より精度の高い構造決定が出来る見込みである。春日古墳、桜井市の古墳に設置して現像した原子核乾板の表面処理などを行い読み取り機でスキャンする。それによって得られるミューオン飛跡データの解析を行ってこの研究を進めていく。
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